繰越欠損金とは|中小企業が活用すべき節税と銀行対応の方法
- 近藤 祐輔

- 2025年9月16日
- 読了時間: 8分
はじめに
「去年は赤字だったので、もう仕方ない話ですよね・・・」
こう考えている経営者は少なくありませんが、決算で赤字が出た場合、それを「終わった話」にしてしまうのは非常にもったいない考え方です。
法人税法上、一定の要件を満たせば、赤字(欠損金)を将来の利益と相殺し、法人税を軽減することができます。これが「繰越欠損金の控除」です。
今回は社長と税理士の対話形式で、繰越欠損金の仕組み・中小企業の特例・銀行評価との関係を解説します。
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1. 繰越欠損金とは何か
社長: 繰越欠損金って、何ですか?
税理士: 過去に生じた税務上の赤字(欠損金)を、将来の黒字と相殺できる制度です。「過去の赤字を翌期以降の利益とぶつけて、法人税の負担を軽くすることができる」という仕組みです。
例:
前期に税務上の赤字 1,000万円発生
↓
今期の税務上の黒字 800万円
繰越欠損金800万円を相殺 → 課税所得ゼロ → 法人税ゼロ
残り200万円の欠損金は翌期以降に繰越
社長: 会計上の赤字と税務上の赤字は同じですか?
税理士: 必ずしも一致しません。税務上の欠損金は「税務上の損金が益金を上回って生じた赤字」であり、会計上の損失と異なる場合があります。別表四での税務調整後の課税所得がマイナスになった場合が「欠損金」です。
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2. 適用要件と繰越期間
社長: 誰でも使えるんですか?
税理士: 以下の要件を満たす必要があります。
項目 | 内容 |
適用対象 | 青色申告書を提出している法人 |
繰越期間 | 最大10年間(2018年4月1日以降開始事業年度分) |
継続要件 | 欠損金が生じた事業年度に青色申告を提出し、その後も継続して申告書を提出すること |
社長: 青色申告をしていない場合は使えないんですか?
税理士: 使えません。青色申告の承認を受けていることが大前提です。また欠損金が生じた年度だけでなく、その後も継続して申告書を提出していないと繰越の権利を失います。
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3. 中小企業の特例:全額控除できる
社長: 繰越欠損金は、いくらまで使えますか?
税理士: 原則は当期所得の50%までですが、資本金1億円以下の中小法人であれば当期所得の全額(100%)を上限として控除できます。これは大企業と比べて非常に有利な取り扱いです。
社長: 「一定の例外を除き」とよく書いてあるのですが、例外とは何ですか?
税理士: 主に「大法人(資本金5億円以上の法人)の100%子会社」などが該当します。形式上は資本金1億円以下でも、大企業グループの完全子会社である場合は中小法人の特例が適用されないケースがあります。通常の中小企業オーナー会社であれば該当しないことがほとんどですが、グループ会社がある場合は確認が必要です。
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4. 実務での活用方法
① 利益が出そうな年度で確認する
社長: 繰越欠損金はいつ使えばいいですか?
税理士: 将来利益が出たときに使って初めて節税効果が出ます。利益の見込みがある場合は「使える繰越欠損金がいくら残っているか」を事前に確認しましょう。
例:
前期 赤字1,000万円(欠損金1,000万円が発生・繰越)
今期 黒字800万円が見込まれる
→ 繰越欠損金800万円を相殺 → 課税所得ゼロ → 法人税ゼロ
→ 残り200万円の欠損金は翌期以降も使える(10年以内)
② 別表七(一)で残高を確認する
繰越欠損金の残高と使用状況は、法人税申告書の別表七(一)で管理されます。申告書に正確に記載されていないと、税務調査時に否認されるリスクがあります。毎期の申告書で残高を確認する習慣をつけることをお勧めします。
③ 使い切れない分は翌年以降に繰越せる
黒字額が繰越欠損金に満たない場合、残額は翌期以降にさらに繰り越すことができます(最大10年)。長期的な利益計画と合わせて、「どの年度でどれだけ使うか」を戦略的に検討することが重要です。
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5. 銀行評価との関係
社長: 繰越欠損金があることは、銀行評価に悪影響がありますか?
税理士: 欠損金の「発生理由」と「消化状況」によって、銀行の評価は大きく変わります。
視点 | 銀行の見方 |
欠損金の発生理由 | 一時的・投資的な赤字であれば将来性ありと評価されやすい |
繰越欠損金の消化状況 | 黒字化しつつあるなら「回復傾向」としてプラス評価 |
法人税等の負担 | 欠損金控除により税負担が軽くなっている→キャッシュフローが改善している点を確認される |
社長: 設備投資や事業拡大が原因の赤字なら、銀行に説明できますか?
税理士: できます。「なぜ赤字になったか」を具体的に説明できることが重要です。「積極的な先行投資による一時的な赤字であり、翌期以降に回収が見込まれる」という説明ができれば、銀行はむしろ「成長投資をしている会社」と評価することがあります。逆に理由を説明できない赤字は「経営管理が甘い」という印象を与えます。
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6. 注意点と落とし穴
社長: 繰越欠損金を使う上での注意点はありますか?
税理士: 主に3つです。
① 青色申告書の提出が必須
青色申告をしていない事業年度の欠損金は繰り越せません。万が一、申告漏れや提出遅延があった場合は権利を失うリスクがあります。
② 10年の期限切れに注意
繰越欠損金は発生から10年で期限が切れます。利益が少ない年が続いて使いきれないまま期限を迎えてしまうケースがあります。長期の利益計画の中で「いつ・いくら使うか」を意識することが重要です。
③ 別表七の記載ミスは税務調査で否認リスク
繰越欠損金の残高・使用額を別表七(一)に正確に記載していないと、税務調査で否認されることがあります。毎期の申告書が正確に作成されているかを確認することをお勧めします。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 繰越欠損金はいつ確認すればいいですか?
毎期の法人税申告書提出後に、別表七(一)で残高を確認することをお勧めします。特に利益が出そうな事業年度の前に「いくら繰越欠損金が残っているか」を把握しておくことで、節税の見通しが立てやすくなります。
Q2. 繰越欠損金があると法人税はゼロになりますか?
中小法人の場合、繰越欠損金が当期の課税所得以上あれば法人税をゼロにできます。ただし法人住民税の均等割(資本金等に応じて数万〜数十万円)は欠損金控除後も発生します。
Q3. 赤字が続いている会社は繰越欠損金をどう活用しますか?
赤字が続いている間は繰越欠損金が積み上がっていきます。将来黒字化したときに一気に相殺できるため、黒字化の計画と合わせて「いつ・いくら使えるか」を確認しておくことが重要です。なお繰越欠損金が多く残っている会社はM&Aの買収対象として評価されることがありますが、欠損金の取得を主目的とした買収・組織再編には注意が必要です。
繰越欠損金を多く抱えた会社を買収し、そこに黒字事業を移転させることで税負担を軽減しようとする手法は、租税回避行為として問題になることがあります。法人税法上、経済合理性を欠くと判断される組織再編に対しては欠損金の引継ぎ・使用を制限する規定が設けられており、税務調査で否認されるリスクがあります。欠損金の活用はあくまで「本来の事業活動の結果として生じた赤字を適正に処理する」という範囲で行うことが重要です。判断が難しい場合は必ず事前に税理士に相談してください。
Q4. 繰越欠損金は合併・組織再編があった場合どうなりますか?
合併・分割などの組織再編があった場合、繰越欠損金の引継ぎに制限が設けられることがあります。特定の要件を満たさないと引き継げない場合があるため、組織再編を検討する際は事前に税理士に確認することが不可欠です。
Q5. 会社を設立した直後に赤字が出た場合も繰越できますか?
できます。設立1期目から青色申告の承認を受けていれば、その期の欠損金も繰越の対象になります。設立直後の投資・準備費用による赤字は、将来黒字化したときに活用できるため、設立初年度から適切な青色申告の手続きを行うことをお勧めします。
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まとめ
繰越欠損金とは過去の税務上の赤字を将来の利益と相殺できる制度(最大10年間)
中小法人(資本金1億円以下)は当期所得の全額(100%)を上限として控除可能
別表七(一)で残高を管理し、毎期確認する習慣をつける
銀行評価では「発生理由の説明」と「消化状況(黒字化の傾向)」が重要
注意点:青色申告が必須・10年の期限切れ・別表七の記載ミスに注意
赤字を「終わった話」にせず、繰越欠損金として戦略的に活用することが、税負担の平準化と財務戦略の両立につながります。
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