事業承継・M&Aを見据えた経営戦略|今から整えるべきこと
- 近藤 祐輔

- 2025年5月20日
- 読了時間: 7分
更新日:4月25日
はじめに
「事業承継やM&Aは、まだ先の話だと思っていて・・・」
こう話す経営者ほど、気づいたときには準備が間に合わないというケースが多いものです。後継者不足による黒字廃業・企業価値の低下・税務上の問題など、承継・M&Aに関わるリスクは早期から手を打つことで大幅に軽減できます。
年商3億円を超えてきた企業にとって、事業承継やM&Aは「出口戦略」ではなく「成長戦略の一部」として捉えることが重要です。
今回は社長と税理士の対話形式で、事業承継・M&Aを見据えて今から整備すべき経営のポイントを解説します。
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1. 事業承継・M&Aの現状
社長: 事業承継やM&Aって、大企業の話じゃないんですか?
税理士: 中小企業こそ今、最も重要なテーマです。後継者不足による「黒字廃業」のリスクが顕在化しており、技術・顧客・雇用が失われるケースが増えています。一方で中小企業M&A市場は拡大しており、第三者への承継チャンスも増えています。
社長: 後継者が親族にいる場合は関係ない話ですか?
税理士: そうではありません。後継者が社内・親族にいる場合でも、財産と経営の分離・株式の整理・事業承継税制の活用など、早期から準備が必要な課題が多くあります。
📌 事業承継・M&Aは「いずれ考える」ではなく「今から準備する」時代です。
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2. 企業価値を決める3つの要素
社長: M&Aで会社を売るとしたら、価値はどうやって決まるんですか?
税理士: 企業の価値は主に以下の3つの要素で評価されます。
評価要素 | 内容 |
将来の稼ぐ力 | 営業利益・キャッシュフローの水準と安定性 |
仕組み化の度合い | 経営者に依存しない組織・管理体制があるか |
説明できる数字 | 財務の透明性・月次管理体制の整備状況 |
社長: 売上が高ければ高いほど価値が上がるわけじゃないんですね。
税理士: その通りです。売上より「利益の質と継続性」が重視されます。特定の顧客・仕入先への依存度が高い会社はリスクが高いと評価され、企業価値が下がります。
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3. 中小企業M&Aで最もよく使われる「年買法」
社長: 企業価値の算定って、どうやるんですか?難しそうで…。
税理士: 中小企業のM&Aで最もよく使われるのが「年買法(年倍法)」です。シンプルで当事者双方が理解しやすいため、実務では広く使われています。
企業価値 = 時価純資産 + 営業利益 × 数年分(一般的に3〜5年)
計算例
時価純資産 5,000万円
営業利益 1,000万円 × 3年分 = 3,000万円
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企業価値(目安) 8,000万円
社長: 「何年分」というのはどうやって決まるんですか?
税理士: 業種・成長性・リスク・交渉によって変わります。安定した収益基盤があり、経営者依存が低く、財務が透明な会社ほど年数が多くなる傾向があります。逆に、特定顧客への依存が高い・役員貸付金がある・財務が不透明な会社は年数が低く評価されます。
社長: つまり今から財務を整えることが、将来の売却価格にも直結するんですね。
税理士: まさにそうです。日頃の財務管理が、将来の企業価値に直結します。
なお年買法以外にも、DCF法(将来キャッシュフローを現在価値に割引く方法)や類似会社比準法(上場類似企業のマルチプルで算定する方法)も使われますが、中小企業では年買法が最も現実的な出発点です。
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4. 今から整えておくべき「経営の見える化」
① 財務内容の整理と説明可能性
社長: 財務面では何を整えればいいですか?
税理士: 3点あります。
3期分以上の月次試算表・損益・貸借・キャッシュフローの整合性を整備する
節税に偏った決算から「企業価値が伝わる決算」へ移行する
役員貸付金・仮払金など不透明な項目を解消する
特に節税目的で利益を圧縮している会社は、M&Aの際に「実態利益」を説明する必要が出てきます。買い手側は必ず「正常化収益力」を計算するため、説明できない節税処理が多いほど企業価値評価が下がります。
② 売上・利益の構造整理
主力事業の採算性を明示する
特定顧客・特定仕入先への依存度を分析し、分散化を進める
サブスクリプション化・ストック収益化など、安定収益の割合を高める
社長: 売上の8割が1社依存なんですが、問題ですか?
税理士: M&Aの観点では大きなリスク要因です。その1社が取引を止めたとき事業が成り立たないと買い手に判断されます。すぐに解消は難しくても、依存度を下げる方向性を示せるかどうかが評価に影響します。
③ 組織体制・人材育成の強化
社長: 「経営者依存をなくす」というのはどういうことですか?
税理士: 社長がいなくても事業が回る仕組みがあるかどうかです。M&Aで買い手が最も嫌うのは「社長が抜けた瞬間に売上が消える会社」です。管理職層・ナンバー2の育成、業務マニュアル・就業規則の整備、月次の数字管理体制の構築がポイントです。
④ 自社の「強み・価値」を言語化する
財務数値だけでなく、技術・ブランド・地域との関係性・顧客との信頼関係などの「定性的価値」を言語化しておくことが重要です。経営理念・ビジョンの明文化も、後継者や買い手への「共感」を生む材料になります。
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5. 事業承継税制の活用
社長: 親族への承継の場合、税金の問題はどうなりますか?
税理士: 株式を後継者に移す際に、贈与税・相続税が大きな負担になります。これを軽減する制度が「事業承継税制(法人版・個人版)」です。一定の要件を満たせば、贈与税・相続税の納税が猶予・免除されます。ただし適用要件・継続要件が複雑なため、早期から税理士と一緒に計画を立てることが重要です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. M&Aと事業承継はどう違いますか?
事業承継は「誰かに経営を引き継ぐこと」全般を指し、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3種類があります。M&Aは第三者への承継手段の一つです。いずれも財務整備・組織体制・株式整理など、共通して必要な準備があります。
Q2. 企業価値を高めるために最も効果的なことは何ですか?
「営業利益の継続的な改善」と「経営者依存の排除」の2点です。年買法の計算式からもわかる通り、営業利益が高いほど企業価値は上がります。また経営者がいなくても回る仕組みがあると、買い手のリスクが下がり評価が上がります。
Q3. M&Aを検討し始めるのはいつ頃がいいですか?
少なくとも希望する時期の3〜5年前から準備を始めることをお勧めします。財務整備・組織体制・株式整理などは短期間では対応できない課題が多く、早期に着手するほど選択肢が広がります。またM&Aは財務整備が整ってからも、買い手候補の選定・交渉・デューデリジェンス・契約締結までに相当な時間がかかります。実際には準備開始から成約まで5〜10年かかるケースもあります。「売りたいと思ったときにすぐ売れる」ものではないため、事業が好調な今から準備を始めることが最善です。
Q4. 役員貸付金がある状態でM&Aはできますか?
できますが、企業価値評価で不利になります。買い手側は役員貸付金を「実質的に回収不能な損失」として純資産から差し引いて評価するため、売却価格に直接影響します。M&Aを視野に入れるなら、早期に解消することをお勧めします。
Q5. 事業承継税制を使うと、後から取り消しできますか?
一定の取り消し要件があります。後継者が5年以内に代表者を退任した場合や、株式を譲渡した場合など、猶予が取り消されて納税が必要になるケースがあります。適用後も継続的な要件管理が必要なため、顧問税理士との連携が不可欠です。
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まとめ
事業承継・M&Aは「出口戦略」ではなく「成長戦略の一部」として早期から準備する
中小企業の企業価値算定は「年買法(時価純資産+営業利益×数年分)」が最もよく使われる
営業利益の継続的な改善と経営者依存の排除が企業価値を高める最大の要素
節税に偏った決算・役員貸付金・特定顧客依存は企業価値を下げる主因
財務・組織・数字管理体制の整備が「引き継がれる会社」を作る
親族承継の場合は事業承継税制の活用を早期から検討する
財務の見える化・組織の仕組み化・数字とストーリーの言語化 —— これらは銀行融資にも、M&Aにも、そして日々の経営にも共通して効いてきます。「引き継がれるための経営」を今から意識することが、会社の長期的な価値を守ることになります。
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