法人税の計算と決算書の関係〜会計上の利益と課税所得はなぜ違うのか?経営者が知るべき調整のしくみ〜
- yusukekondo9
- 8月21日
- 読了時間: 4分
「決算で利益が1,000万円だったのに、法人税が思ったより高かった(あるいは安かった)」このようなギャップに疑問を持ったことはありませんか?
その原因は、「会計上の利益(=決算書の利益)」と「法人税の課税所得(=申告書での利益)」が異なるルールで計算されているためです。
今回は、法人税の計算の流れと、決算書との関係性について、経営者が理解しておくべきポイントをわかりやすく解説します。
I. 法人税の計算の基本構造
法人税は、「課税所得 × 税率」によって計算されます。課税所得とは、税法に則って算出した利益であり、会計上の利益とは異なる概念です。
法人税の計算ステップは以下の通りです:
会計上の利益(決算書の「当期純利益」)をもとにする
税務上の加算・減算を行って「課税所得」を算出
法人税率をかけて法人税額を計算
地方法人税・事業税・住民税などを加えて納税額が確定
II. 会計上の利益と税務上の課税所得の違い
会計と税務は目的が異なるため、ルールも異なります。
項目 | 会計(決算書) | 税務(申告書) |
目的 | 実態に近い経営成績の表示 | 公平な課税・税収確保 |
利用者 | 経営者、銀行、株主 | 税務署 |
基準 | 会計基準(企業会計原則) | 税法(法人税法) |
したがって、会計上は正しい処理でも、税務上は認められない、または認められないタイミングがあるというケースが発生します。
III. 課税所得への調整|別表四の役割
会計と税務のズレを調整するのが、法人税申告書の「別表四」です。ここで加算・減算を行い、税務上の「所得金額(課税所得)」を導き出します。
よくある加算項目(課税所得に上乗せ)
会議費の範囲を超えた交際費(中小企業には損金算入限度あり)
任意の引当金(税務では一部しか認められない)
寄附金(損金算入限度あり)
減価償却の超過部分(会計上の償却が税務基準を上回る場合)
よくある減算項目(課税所得から控除)
過年度の繰越欠損金(控除上限あり)
法定償却額が会計償却額より多い場合の調整
受取配当金の益金不算入(一定割合を損金算入可)
✅ ポイント:こうした調整の積み上げで、決算書上の利益とは異なる「課税所得」が算出されます。
IV. 具体例|会計上の利益と法人税の違いが出るパターン
たとえば、以下のようなケースです。
例)会計上の当期純利益:1,000万円
寄附金 100万円(全額損金不算入) → 加算
繰越欠損金控除 400万円 → 減算
⇒ 課税所得:1,000万円 + 100万円 − 400万円 = 700万円→ これに税率をかけて法人税額を計算します。
V. 決算書と税務申告書の連携資料
法人税の計算にあたって、以下のような資料が連携して使われます:
資料名 | 役割 |
決算書(B/S、P/L) | 会計上の利益・財政状態の把握 |
別表四 | 課税所得の算出のための加減算調整 |
別表五(一) | 利益剰余金の増減・税引後利益との整合性 |
別表五(二) | 繰越欠損金の残高管理 |
勘定科目内訳明細書 | 経費や貸付金などの内訳開示(税務署用) |
これらの帳票が整合しているかは、税務調査でも重点的にチェックされます。
VI. 銀行との関係:税引前利益は信用評価の指標
銀行は、法人税の支払い前の利益(税引前当期純利益や経常利益)をもとに、以下の点を見ています:
本業で安定した利益が出ているか(営業利益、経常利益)
課税前のキャッシュフローが返済能力を支えているか
節税に偏りすぎて見かけ上の利益が減っていないか
つまり、会計上の利益と税務申告内容の整合性を保ちつつ、信用に足る内容かが重要です。
VII. 経営者として押さえておくべきポイント
法人税の計算は、決算書がベースであること → 決算書が適正でなければ、法人税計算も誤る
節税と見せ方のバランスをとる → 極端な節税は銀行評価にマイナス
別表四・五の内容を理解する姿勢を持つ → 税理士任せではなく、経営者としてチェックする習慣を
まとめ|「会計」と「税務」を結ぶ視点を持つ
法人税は、決算書をベースに計算されるが、そのまま課税されるわけではありません。税法上のルールによって調整が加えられ、「課税所得」が導かれます。
経営者は次のような視点を持つことが大切です:
✅ 決算書の利益と税務申告書の課税所得の違いを理解する
✅ 加算・減算の調整理由を把握しておく
✅ 銀行・税務署・自社経営、それぞれの目的に合った数字の見せ方を考える
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