減価償却の税務と会計上の差異の理解〜固定資産の費用計上、会計と税務でなぜ違う?を明確に〜
- yusukekondo9
- 2 日前
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「会計では減価償却してるのに、なぜ税務では損金にならないんですか?」
中小企業の経営者からよく受けるご質問のひとつです。
固定資産を保有していれば必ず発生する「減価償却」。しかし、この減価償却は会計上と税務上で処理のルールが異なるため、利益や税額に差が生まれることがあります。
この記事では、減価償却における税務と会計の違い、よくある誤解、実務での注意点を、税理士の視点でわかりやすく解説します。
I. 減価償却とは?
減価償却とは、固定資産(建物、車両、機械など)の購入費用を耐用年数にわたって費用化する処理です。
例えば、1,000万円の機械を10年使うと想定すれば、毎年100万円ずつ経費にしていく考え方です。
II. 減価償却の会計上の目的
正しい期間損益計算を行うため
実際の費用発生と会計上の費用を一致させるため
「減価=価値が減った分」を会計に反映するため
✅ 会計上は、企業の実態に即して「任意償却」が認められます。
たとえば:
耐用年数より早く償却する
使用状況に応じて多めに償却する
一括で減価償却する(特例)など
III. 税務上の減価償却の目的
適正かつ公平な課税を行うため
減価償却費を税務上の経費「損金」として認めるかどうかが重要
税務上は、「法定耐用年数・償却方法」による強制償却が原則
✅ 原則として、定められた耐用年数と償却方法に基づく償却費しか損金にできません。
IV. 会計と税務の違いを整理すると?
項目 | 会計上 | 税務上 |
減価償却の方法 | 任意償却可能(企業判断) | 法定耐用年数・法定償却率に従う(原則強制) |
耐用年数 | 使用実態等に応じて変更可 | 国税庁の「耐用年数表」に基づく |
償却額 | 経営判断で増減可 | 上限あり(法定の範囲内) |
一括償却 | 会計上は可能 | 一定資産のみ税務でも可能(10万円未満・30万円未満の特例など) |
V. 税務上の特例:一括償却・少額資産の取扱い
中小企業(資本金1億円以下)では、以下のような税務上の特例があります。
区分 | 内容 | 損金算入可能額 |
取得価額10万円未満 | 固定資産として計上せず、その年の費用(消耗品費等)にできる | 全額即時損金算入 |
一括償却資産(20万円未満) | 取得価額を3年間で均等に償却 | 毎年1/3ずつ損金算入 |
少額減価償却資産(30万円未満) | 合計300万円/年まで即時償却可(中小企業のみ) | 全額即時損金算入(特例) |
※ 少額資産の即時償却は「青色申告書提出法人」に限られます。
VI. よくある誤解と注意点
❌「会計で全部償却したら、税金も減るはず」
➡ 税務上は、法定耐用年数や定額・定率法に基づく償却しか認められないため、会計上の償却がいくら大きくても、そのまま損金にならないことがあります。
❌「耐用年数を短くすれば節税になる」
➡ 会計上は可能ですが、税務上は固定資産の種類に応じた耐用年数を使わなければなりません。勝手に変更できません。
❌「中古資産だから自由に償却できる」
➡ 中古資産は耐用年数を短縮できるケースがありますが、所定の計算式に従って再設定する必要があります。
VII. 実務での対応方法
会計上は経営判断に基づく償却計画を立てる
キャッシュフローや設備投資計画に沿った費用計上が可能
税務上は必ず「固定資産台帳」を整備し、耐用年数と償却方法を管理
税務調査で減価償却が最初に見られます
会計と税務で差異が生じた場合は「別表四」で調整
税務上の償却額との差額は、加算・減算処理
VIII. 銀行との関係でも減価償却は見られている
金融機関は、決算書の減価償却費を以下の観点からチェックします:
設備更新サイクルや事業計画の妥当性
実質キャッシュフロー(営業利益+減価償却)からの返済余力
固定資産の実質価値と担保評価への影響
➡ 減価償却費が「戦略的に管理されているかどうか」で、経営者の資金管理能力が判断されます。
まとめ|「減価償却」は会計と税務で使い分ける
減価償却は、会計では経営判断の柔軟性、税務では公平課税の厳格さが求められる
差異は「別表四・五」で調整され、税務上の課税所得が決まる
金融機関や投資家も、減価償却の内容を重視している
適切な処理と記録で、税務調査・融資審査への対応力を高めよう
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