利益剰余金の増減が銀行取引に与える影響~「利益剰余金=信頼の蓄積」だと知っていますか?~
- yusukekondo9
- 10月7日
- 読了時間: 3分
決算書において「利益剰余金」は、あまり注目されることの少ない項目かもしれません。しかし、金融機関はこの数字を非常に重視しています。
税務の世界では、利益剰余金そのものに課税はありませんが、銀行取引では“信用力”のバロメーターとして扱われる指標です。
この記事では、税理士の立場から、利益剰余金の基本とその増減が銀行融資に与える影響、見せ方の工夫を詳しく解説します。
✅ 利益剰余金とは?
利益剰余金とは、会社が過去の事業活動で得た利益のうち、配当などで社外に出ず、社内に残っている蓄積のことです。
利益剰余金 = 累積利益 − 累積赤字 − 配当・賞与支出等
会社の“内部留保”の中核をなす項目で、貸借対照表(B/S)の純資産の部に表示されます。
✅ 銀行は「利益剰余金の推移」をこう見る
銀行の視点では、利益剰余金は次のように評価されます:
利益剰余金の状態 | 銀行の見方 |
年々増加 | 利益体質が安定しており、財務基盤が良い会社と評価される |
横ばい | 配当や内部投資が多い会社か、利益が安定していない可能性あり |
減少・マイナス | 赤字が続いており、資本棄損・債務超過に陥るリスクを警戒 |
📌 「利益剰余金が積み上がっている=財務健全性が高い」と判断され、格付けにプラスに働きます
✅ 利益剰余金が銀行融資に与える影響
① 自己資本比率を押し上げ、格付けが向上
利益剰余金は純資産の一部であるため、自己資本比率を上昇させます。
自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資産 × 100
✅ 自己資本比率が高くなる
→ 財務安全性が高いと評価
→ 融資条件の優遇(低金利・長期化など)につながる可能性が高い
② 債務超過・資本不足を避ける“クッション”になる
突発的な赤字が出たとしても、過去の利益剰余金が積み上がっていれば、債務超過になるリスクを回避できます。
銀行は、「たとえ一時的に赤字でも、蓄積がある会社は信頼できる」と判断します。
③ 銀行からの追加融資・保証枠の拡大に寄与
利益剰余金が着実に積み上がっている会社は、信用保証協会の「代表者保証の免除制度」などでも優遇されやすくなります。
📌 特に中小企業においては、利益剰余金が少ないと、代表者保証の解除が困難になります
✅ 税務上の考慮:利益剰余金を意図的に減らしても銀行には伝わる?
節税を目的に、
役員退職金を多額に支給して当期利益を減らす
保険や利益繰延型の節税商品で利益を圧縮するといった施策がよく使われます。
しかし銀行は、「一時的な利益圧縮」を読み取るプロです。月次推移、前年までの剰余金残高、BSの変化、キャッシュ残高などから、実態の蓄積力を見抜きます。
📌 安易な“節税”が、銀行格付けに逆効果となることもあるため、財務戦略と税務戦略の両立が必要です
✅ 銀行に対して“見せる”コツ
工夫 | 内容 |
試算表の推移を共有 | 四半期・月次ベースで利益剰余金の積み上がりを開示 |
黒字化計画を提示 | たとえ赤字でも、今後の剰余金改善シナリオを提示する |
配当・賞与とのバランスを説明 | 利益が出ていても剰余金が増えていない理由(内部投資など)を説明できるようにしておく |
まとめ|「利益剰余金」は財務の履歴書
「過去の努力が積み上がっている会社か」それを表すのが利益剰余金です。
銀行は、損益計算書の“瞬間的な黒字”よりも、貸借対照表にある“積み重ねられた剰余金”を重視します。
経営者として、利益剰余金を単なる“残高”ではなく、信用の指標として捉えることが重要です。
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