利益剰余金が銀行融資を左右する|内部留保と信用力の関係
- 近藤 祐輔

- 2025年10月7日
- 読了時間: 8分
更新日:4月17日
はじめに
「利益剰余金って、決算書のどこかに出てくる数字ですよね。正直あまり気にしたことがなくて・・・」
こう話す経営者は少なくありません。ところが銀行の融資担当者は、決算書の中でこの「利益剰余金」を最も注目する項目の一つとして見ています。
利益剰余金は、会社がこれまでの事業活動で積み上げてきた利益の蓄積です。銀行はこれを「財務の履歴書」として読み取り、融資可否・金利・保証条件の判断に活用しています。
今回は社長と税理士の対話形式で、利益剰余金が銀行融資に与える影響と、経営者として知っておくべき視点を解説します。
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1. 利益剰余金とは何か?
社長: 先生、「利益剰余金」って決算書のどこに出てきますか?そもそも何を表しているんですか?
税理士: 貸借対照表(BS)の純資産の部に表示されています。一言で言うと「会社が過去に稼いだ利益のうち、社外に出ていかずに社内に残っている蓄積」です。
利益剰余金 = 累積利益 − 累積赤字 − 配当等の社外流出社長: 毎年の利益がそのまま積み上がっていくということですか?
税理士: そうです。毎期黒字であれば積み上がり、赤字であれば取り崩されます。配当を出せばその分減ります。だから利益剰余金の残高と推移を見れば、「この会社がこれまでどれだけ稼いで、どれだけ社内に残してきたか」という経営の実績が一目でわかります。銀行はこれを「財務の履歴書」として読んでいます。
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2. 銀行は「利益剰余金の推移」をこう見ている
社長: 銀行は利益剰余金のどこを具体的に見ているんですか?
税理士: 残高だけでなく、推移(トレンド)を重視します。
利益剰余金の状態 | 銀行の見方 |
年々増加 | 利益体質が安定しており、財務基盤が良い会社と評価 |
横ばい | 配当が多い、または利益が安定していない可能性あり |
減少・マイナス | 赤字が続いており、債務超過に陥るリスクとして警戒 |
社長: 横ばいも問題になるんですか?利益は出ているのに。
税理士: 利益が出ているのに剰余金が増えていない場合、「どこに消えているのか」を銀行は確認してきます。配当・内部投資であれば説明できますが、説明できないと「実態がわからない会社」と判断されます。理由を説明できるかどうかが重要です。
📌 「利益剰余金が積み上がっている=財務健全性が高い」。これが銀行の基本的な評価軸です。
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3. 利益剰余金が銀行融資に与える3つの影響
① 自己資本比率を押し上げ、融資条件が有利になる
利益剰余金は純資産の一部であるため、積み上がるほど自己資本比率が上昇します。
自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資産 × 100
例:純資産3,000万円・総資産1億円 → 自己資本比率30%
利益剰余金が500万円増加 → 純資産3,500万円 → 自己資本比率35%自己資本比率が上がると、銀行格付けが改善し、金利の引き下げ・融資期間の長期化・担保条件の緩和につながる可能性があります。
② 突発的な赤字への「クッション」になる
社長: うちは毎年それなりに黒字ですが、もし来期大きな赤字になったら・・・。
税理士: そのときに利益剰余金の蓄積が効いてきます。たとえば利益剰余金が5,000万円ある会社が1,000万円の赤字を出しても、純資産は4,000万円残ります。一方で利益剰余金が500万円しかない会社が同じ赤字を出すと、△500万円で債務超過に陥ります。
【ケースA】利益剰余金5,000万円の会社
当期赤字 1,000万円 → 利益剰余金 4,000万円残 → 債務超過にならない
【ケースB】利益剰余金500万円の会社
当期赤字 1,000万円 → 利益剰余金 △500万円 → 債務超過銀行は「たとえ一時的に赤字でも、蓄積がある会社は信頼できる」と判断します。
③ 代表者保証の免除・軽減につながる
社長: 代表者保証って、外せるものなんですか?
税理士: 一定の条件を満たせば外せます。その条件の一つが「利益剰余金がしっかり積み上がっていること」です。信用保証協会の「経営者保証に関するガイドライン」では、財務基盤が十分に確立されている会社は代表者保証を免除・軽減できる場合があります。
中小企業において利益剰余金が少ないと、代表者保証の解除が困難になります。逆に言えば、毎期利益を出して剰余金を積み上げることが、社長個人のリスクを下げることにも直結します。
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4. 「節税」が銀行評価を下げる逆効果のメカニズム
社長: 税理士さんからよく「節税しましょう」と言われるんですが、節税すると利益剰余金が増えないですよね。これって銀行評価的にはどうなんですか?
税理士: 非常に重要な視点です。よく使われる節税手法として、役員退職金の多額支給や保険・利益繰延型の節税商品による利益圧縮があります。これらは税務上は有効ですが、銀行から見ると「利益剰余金の蓄積を止めている」と映ります。
社長: 銀行にはバレるんですか?
税理士: バレるというより、銀行は読み取るプロです。月次推移・前年までの剰余金残高・BSの変化・キャッシュ残高などを総合的に見て、「一時的な利益圧縮なのか、実態として稼げていないのか」を判断します。
たとえば役員退職金を5,000万円支給して当期利益をゼロにした場合、銀行はその退職金支給を「一時費用」として除外して実態利益を計算し直します。しかし保険や節税商品による利益圧縮は、実態利益の計算が難しくなるため、銀行が「実態がわかりにくい会社」と判断するリスクがあります。
📌 安易な節税が銀行格付けに逆効果となることもあるため、財務戦略と税務戦略の両立が重要です。
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5. 銀行に利益剰余金を「正しく見せる」3つの工夫
社長: 利益剰余金を銀行に対してうまく伝えるには、どうすればいいですか?
税理士: 3つの工夫があります。
① 試算表の推移を定期的に共有する
四半期・月次ベースで利益剰余金の積み上がりを開示することで、「この会社は数字を把握して経営している」という印象を与えられます。決算書だけでなく、月次の試算表を定期的に持参する習慣が、銀行担当者との信頼関係を築きます。
② 剰余金が増えていない理由を説明できるようにする
利益が出ているのに剰余金が横ばいの場合は、「配当を出した」「設備投資に充てた」などの理由を補足資料で説明します。理由が明確であれば、銀行の評価は下がりません。
③ 赤字でも「改善シナリオ」を数字で示す
利益剰余金が減少している・マイナスの場合でも、3か年の黒字化計画(PL・キャッシュフロー予測)を添えることで、融資交渉を前向きに進められるケースがあります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 利益剰余金とキャッシュ(現金)は同じですか?
違います。利益剰余金は「過去の利益の蓄積」という会計上の概念であり、現金残高とは一致しません。利益剰余金が大きくても、設備投資や売掛金の回収遅れなどで手元現金が少ない会社もあります。銀行は利益剰余金と現金残高の両方を確認します。
Q2. 利益剰余金がマイナス(繰越欠損金)の場合、融資は無理ですか?
必ずしも無理ではありません。繰越欠損金がある状態でも、直近の業績が改善傾向にあり、改善計画が具体的であれば融資が通るケースがあります。日本政策金融公庫や商工中金は、こうした局面で民間銀行より柔軟に対応することがあります。
Q3. 役員報酬を下げて利益剰余金を増やす戦略は有効ですか?
有効です。ただし役員報酬は期中に変更できないため、期首の設定が重要です。また役員報酬を下げると社長個人の手取りが減るため、生活設計とのバランスも考慮する必要があります。財務戦略として「会社に残す利益」と「個人に取る報酬」の最適バランスを設計することが重要です。
Q4. 配当を出すと利益剰余金が減りますが、銀行評価に影響しますか?
影響します。ただし配当の理由が明確であれば(株主への還元方針・資本政策など)、銀行は一時的な減少として評価します。問題になるのは、説明なく剰余金が減っているケースです。
Q5. 利益剰余金を増やすために最も効果的な方法は何ですか?
シンプルに「毎期黒字を出し続けること」です。特効薬はありません。粗利率の改善・固定費の適正化・売掛金の早期回収など、本業のキャッシュフローを改善することが、利益剰余金の積み上げに直結します。節税は重要ですが、利益剰余金の蓄積と銀行評価を意識した上で、財務戦略と税務戦略を一体で設計することが理想です。
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まとめ
利益剰余金は「過去の利益の蓄積」であり、銀行が最も重視する信用力の指標の一つ
年々増加していれば格付け向上・融資条件の優遇につながる
積み上がった剰余金は突発的な赤字への「クッション」になり、債務超過リスクを下げる
代表者保証の免除・軽減にも利益剰余金の蓄積が条件になる
安易な節税による利益圧縮は銀行格付けに逆効果になることがある
財務戦略と税務戦略を一体で設計することが、信用力を高める最短ルート
銀行は損益計算書の「瞬間的な黒字」より、貸借対照表に積み重なった「利益剰余金」を重視します。毎期の利益を会社に残す経営が、融資交渉力の土台になります。
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