top of page
検索

利益率の推移と異常値の見つけ方~“数字のクセ”が企業体質を映し出す~

  • yusukekondo9
  • 11月11日
  • 読了時間: 4分

はじめに|「利益率」は単年ではなく“推移”で見る


「今期は営業利益率10%出たから順調です」「前期より利益は増えているので問題ないと思います」

こういった声を聞くたびに、私はこう思います。

「その利益率、去年と比べてどう変わっていますか?」「異常値に気づいていますか?」

利益率は“絶対値”より“相対推移”が大事。数字は見た目より“変化”に本質が現れます。

特に年商数億円規模を目指す企業であれば、単年黒字に安心せず、毎期の“率の推移”を観察する習慣が重要です。



1. 利益率とは?|「儲けの効率性」を測る物差し


まずはよく使われる3つの利益率を整理しましょう。

利益率

計算式

意味

売上総利益率(粗利率)

(売上 − 売上原価)÷ 売上高

商品やサービスの「仕入れに対する儲け」

営業利益率

営業利益 ÷ 売上高

本業の儲けの効率

経常利益率

経常利益 ÷ 売上高

本業+金融収支含めた総合的な利益力

📌 利益「額」ではなく「率」で見ることで、売上高の大小に関わらず会社の体質比較ができるようになります



2. なぜ“推移”で見る必要があるのか?


利益率の単年数値は一時的な要因(例:特別利益、在庫評価、期末調整等)に左右されることがあります。一方、複数年の利益率の“流れ”を見れば、その会社の構造的な強み・弱みが浮き彫りになります。


✅ 推移でわかること:

  • 改善傾向にあるのか、悪化傾向なのか(対策の優先順位)

  • 異常値が発生した年に何があったか(要因分析)

  • 戦略変更が利益率にどう影響したか(効果検証)



3. 異常値の見つけ方|チェックすべき視点5つ


以下の観点で“異常値”をあぶり出すと、経営の“ボトルネック”に気づけます。


① 年ごとの営業利益率を並べてみる

売上高

営業利益

営業利益率

2022年

1億円

1,000万円

10.0%

2023年

1.2億円

600万円

5.0% ←減少

2024年

1.1億円

900万円

8.2% ←回復傾向

📌 営業利益率が前年比で±2%以上動いている場合は要注意→ 売上が増えても利益が下がっているなら“コスト構造”が崩れている可能性あり


② 同業他社と比較してみる

  • 同業種の平均営業利益率と自社を比べる

  • 業界水準より極端に低い/高い → 構造のゆがみかも


📌 例:製造業で平均6%のところ、自社は15% → 在庫評価 or 人件費計上のタイミング注意


③ 人件費率・広告費率などの「構成比率」が急増していないか?

科目

売上比(前年)

売上比(当年)

差異

人件費

20%

27%

+7% ←要確認

広告宣伝費

5%

12%

+7% ←急増

📌 特定の費用項目が売上と比較して急増しているなら、その費用対効果が問われます


④ 減価償却・役員報酬・交際費の“操作性”に注目

  • 一部の利益率は、経営判断である程度“操作”可能です

  • 営業利益率が毎期安定して同じ…それ、本当に健全ですか?


📌 役員報酬で調整しているだけなら、実態の変化が見えないことも


⑤ 税引前利益率が毎年ブレる場合は“財務コントロール”の課題

  • 金融機関からは「利益の安定性」が評価される

  • 特別利益や雑収入に頼っていると、見抜かれます



4. 異常値をどう読み解き、どう改善につなげるか?


異常値=悪ではありません。重要なのは、「なぜそうなったか」を説明できること。


✅ 実務での改善アプローチ

ステップ

内容

① 異常値を見つける

利益率の推移と費用構成比で異常を検知

② 要因を特定する

売上変動?費用増?一過性?構造的?

③ 手を打つ

費用削減?値上げ?KPI設計?体質改善?

④ モニタリング

毎月の利益率チェック体制を構築

📌 改善の第一歩は、「利益率の低下を“直視する”勇気」です



5. 銀行や投資家も“利益率の推移”を見ている


金融機関や投資家が評価するのは、“一時的な黒字”ではなく、“継続的に稼ぐ力”。


✅ 評価されるポイント:

  • 3期連続で利益率が安定して上昇している

  • 利益率低下の理由を明確に説明できている

  • 営業利益率だけでなく、限界利益率やEBITDAなども開示している



まとめ|利益率の“推移”を見れば、会社の体質がわかる

観点

意義

利益率の推移

経営の持続力・改善力を映す

異常値の検知

無駄・機会損失・リスクの兆候を掴む

改善への活用

KPIや業務プロセスの見直しに活かす

財務の信頼性

銀行・VC・税務調査への説明力アップ

“利益が出たか”ではなく、“利益がどう変化しているか”を見よう。

数字は社長の「意思」と「癖」を語ります。利益率の推移を丁寧に追えば、打つべき手が必ず見えてきます。



弊所サービスに関するお問い合わせは「お問い合わせフォーム」からお願いいたします

 
 
 

最新記事

すべて表示
固定費と変動費の分類と経営戦略|利益率改善の第一歩

はじめに 「売上は増えているのに、なぜか利益が出ない・・・」 こうした悩みを持つ中小企業経営者は少なくありません。 その原因の多くは、 コスト構造が見えていない ことにあります。 とりわけ、「固定費」と「変動費」の区分を明確にすることで、 利益構造の見える化 損益分岐点の把握 意思決定のスピードアップ につながり、企業の利益体質を強化することが可能です。 この記事では、税理士の視点から、固定費と変

 
 
 
交際費・会議費の見せ方と実効性の違い|税務と金融機関評価の分岐点

はじめに 中小企業の経営者にとって「交際費」と「会議費」の分類は、単なる勘定科目の話にとどまりません。 税務上の損金算入の可否 金融機関からの印象(見せ方) といった2つの観点で大きな意味を持ちます。 本記事では、税理士の視点から、交際費・会議費の実務的な使い分けと金融機関との関係性を整理し、適正な処理とリスクヘッジのポイントを解説します。 交際費とは ■ 税務上の定義(法人税法第61条の4) 「

 
 
 
役員報酬と利益のバランスの取り方~中小企業が見落としがちな資金繰りと評価の視点~

はじめに 「節税のために役員報酬を多く取って、法人の利益を抑えたい」 こうした考え方は多くの中小企業で見られます。確かに、役員報酬は法人の損金になり、法人税の軽減に繋がります。 しかし、役員報酬の増加に伴い、 社会保険料の負担も増加 し、加えて 個人の所得税は累進課税 であるため、一定以上の報酬額になると 法人・個人トータルでの税負担が増える可能性が高くなります 。 この記事では、税務・財務・金融

 
 
 

コメント


近藤祐輔税理士事務所

Yusuke Kondo Tax Accounting Office

〒279-0023 千葉県浦安市高洲8丁目1番714

​TEL:047-707-3714

©2025 近藤祐輔税理士事務所

bottom of page