役員報酬と利益のバランス|法人・個人トータルの税負担を最適化
- 近藤 祐輔

- 2025年11月25日
- 読了時間: 7分
はじめに
「節税のために役員報酬を多く取って、法人の利益を抑えたい」
こうした考え方は多くの中小企業で見られます。確かに役員報酬は法人の損金になり、法人税の軽減につながります。しかし社会保険料・所得税・住民税・銀行評価・キャッシュフローをすべて合わせて考えると、単純に「高くすれば節税になる」とは言い切れません。
今回は社長と税理士の対話形式で、法人・個人のトータルの税負担と最適なバランスの考え方を、具体的な数値シミュレーションとともに解説します。
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1. 役員報酬を上げると何が起きるか
社長: 役員報酬を上げれば法人税が減るので、節税になりますよね?
税理士: 法人税は確かに減りますが、同時に以下の負担が増えます。
① 社会保険料の増加
役員報酬が上がると健康保険料・厚生年金保険料も比例して増加します。法人と個人の折半負担のため、会社にも個人にも負担増となります。
② 所得税・住民税の増加
個人の所得税は累進課税です。役員報酬が増えるほど税率が上がります。
課税所得 | 所得税率 |
〜195万円 | 5% |
195〜330万円 | 10% |
330〜695万円 | 20% |
695〜900万円 | 23% |
900〜1,800万円 | 33% |
1,800〜4,000万円 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
住民税(概ね10%)を加えると、一定以上の役員報酬では「法人に残して法人税率25〜30%で納税した方がトータルで安くなる」ケースが多くあります。
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2. 具体的なシミュレーション
社長: 数字で見せてもらえますか?
税理士: 年商1億円・法人利益1,000万円(役員報酬支給前)の会社を例に3つのパターンで比較します。
パターンA:役員報酬ゼロ
役員報酬 0円
法人利益 1,000万円
法人税等(約30%) 300万円
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法人の手元現金 700万円
社長の手取り 0円(生活困難)
パターンB:役員報酬1,000万円(利益をゼロにする)
役員報酬 1,000万円
法人利益 0円
法人税等 0円
社長個人の負担(シミュレーション値)
所得税+住民税 約147万円
社会保険料(個人) 約121万円
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個人負担合計 約268万円
社長の手取り 約732万円
会社負担社会保険料 約124万円
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法人・個人トータルの税・保険料負担 約392万円
パターンC:役員報酬600万円(利益400万円を法人に残す)
役員報酬 600万円
法人利益 400万円
法人税等(約25%) 100万円
社長個人の負担(概算)
所得税+住民税 約60万円
社会保険料(個人) 約80万円
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個人負担合計 約140万円
社長の手取り 約460万円
会社負担社会保険料 約80万円
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法人・個人トータルの税・保険料負担 約320万円
社長: パターンCの方がトータルの負担が一番少ないんですね。
税理士: そうです。パターンBと比べてトータルで約70万円有利で、さらに法人に400万円の利益が残るため内部留保も積み上がります。
⚠️ 注意:上記のシミュレーションは、家族構成・扶養控除・生命保険料控除・医療費控除などの各種控除を考慮していない簡易的な試算です。実際の税負担は個人の状況によって大きく異なります。具体的な最適額の判断は必ず税理士にシミュレーションを依頼してください。
ただし最適な金額は会社の利益水準・個人の家族構成・住民税の均等割・社会保険の上限など複数の要素で変わるため、毎期のシミュレーションが必要です。
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3. 銀行評価への影響
社長: 役員報酬を増やして法人の利益を圧縮すると、銀行評価はどうなりますか?
税理士: 大きく影響します。銀行は決算書の営業利益・経常利益を見て企業の収益力を判断します。法人の利益を圧縮しすぎると「この会社は利益が出ていない」と判断され、融資審査や信用評価に悪影響を及ぼします。
さらに役員報酬はキャッシュアウトを伴うため、法人に現金が残りにくくなり財務の健全性も下がります。自己資本比率・債務償還年数・営業キャッシュフローのすべてが悪化し、融資条件が厳しくなる可能性があります。
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4. 最適なバランスを見つける3つの観点
社長: 結局、どうやって最適な役員報酬を決めればいいですか?
税理士: 以下の3つを同時に考えることが必要です。
観点 | 検討ポイント |
税務 | 法人税・所得税・住民税・社会保険料をトータルで試算する |
財務 | キャッシュフローに支障が出ないか・銀行からの見え方 |
将来戦略 | 内部留保の確保・借入・投資に耐えうる利益水準の維持 |
社長: 最適額は自分で計算できますか?
税理士: 基本的な試算はできますが、給与所得控除・社会保険の上限・住民税の均等割・法人税の実効税率など複数の要素が絡み合うため、正確なシミュレーションには専門知識が必要です。毎期の利益見通しが固まる事業年度開始前後のタイミングで税理士とシミュレーションすることを強くお勧めします。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員報酬の社会保険料はどのくらいかかりますか?
標準報酬月額に対して概ね30%程度(会社・個人合計)が社会保険料の目安です。ただし健康保険料は都道府県・健保組合によって異なり、厚生年金保険料には上限(標準報酬月額65万円)があります。役員報酬が一定額を超えると社会保険料の増加が緩やかになる点も考慮して設計することが重要です。
Q2. 役員報酬を毎年変更しても問題ありませんか?
事業年度開始後3か月以内であれば変更できます。ただし毎期大きく変動させると「利益を見ながら恣意的に調整している」という印象を与え、税務調査の際に問題になる可能性があります。基本的には毎期の利益見通しを踏まえて慎重に設定し、大きな変更は合理的な理由とともに記録しておくことをお勧めします。
Q3. 法人に利益を残してから配当にする方法はありますか?
可能ですが、配当には源泉所得税(20.42%)が課税されます。また配当は役員報酬と違い損金にならないため、法人税を払った後の利益から配当することになります。二重課税(法人税+配当への所得税)になるケースが多く、中小企業では役員報酬での受け取りの方が有利になることがほとんどです。
Q4. 家族を役員にして報酬を分散すれば節税になりますか?
実際に職務を執行している場合は有効な戦略です。家族への役員報酬も損金算入でき、個人の税率が低い家族に分散することで世帯全体のトータル税負担を下げられます。ただし職務実態がない場合は税務調査で否認されるリスクがあります。
Q5. 毎期シミュレーションはどのタイミングで行うべきですか?
事業年度開始後2〜3か月以内が最適なタイミングです。この期間内であれば役員報酬の変更が損金算入要件(定期同額給与)を満たします。前期の決算が固まったタイミングで今期の利益見通しと合わせて税理士とシミュレーションを行うことをお勧めします。
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まとめ
役員報酬を最大化 | 適正水準で調整 | |
法人税負担 | 軽減 | 一定額発生 |
個人負担(所得税・社保) | 大幅増 | 負担を抑制 |
銀行評価 | 利益減で悪化 | 利益確保で良好 |
総合バランス | △ | ◎ |
役員報酬を増やすと法人税は減るが、社会保険料・所得税・住民税が増えてトータル負担が増えるケースがある
役員報酬1,000万円の場合、個人の税金+社保で約268万円・会社の社保負担約124万円・合計約392万円が総コスト
法人に一定の利益を残す設計の方が、トータル負担を抑えながら内部留保も積み上がる
最適額は税務・財務・将来戦略の3つを同時に考え、毎期シミュレーションして決定する
役員報酬は「節税ツール」ではなく「経営戦略の一部」です。法人・個人・銀行評価をトータルで設計することが、会社と社長の両方を強くする最短ルートです。
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