役員報酬と利益のバランスの取り方~中小企業が見落としがちな資金繰りと評価の視点~
- yusukekondo9
- 11月25日
- 読了時間: 3分
はじめに
「節税のために役員報酬を多く取って、法人の利益を抑えたい」
こうした考え方は多くの中小企業で見られます。確かに、役員報酬は法人の損金になり、法人税の軽減に繋がります。
しかし、役員報酬の増加に伴い、社会保険料の負担も増加し、加えて個人の所得税は累進課税であるため、一定以上の報酬額になると法人・個人トータルでの税負担が増える可能性が高くなります。
この記事では、税務・財務・金融機関の視点から、役員報酬と法人利益のバランスについて正確に解説します。
税務の基本:役員報酬は損金になる
法人税法上、「定期同額報酬」として支給された役員報酬は法人の損金に算入されます。
■ メリット
法人の利益圧縮により法人税が軽減される
役員個人の所得には「給与所得控除」が適用される
ただし、法人税の負担が軽くなる一方で、役員個人にかかる負担が無視できない点に注意が必要です。
役員報酬を上げると何が起きるか?
① 社会保険料の増加
役員報酬が上がれば、健康保険料・厚生年金保険料も比例して増加します。 法人・個人の折半負担のため、法人にも個人にも負担増となります。
② 所得税・住民税の増加
個人の所得税は累進課税です。課税所得が増えるごとに税率が上がり、
年収900万円超 :33%
年収1,800万円超:40%
年収4,000万円超:45%
といった高い税率が適用されます。
さらに住民税(概ね10%)も加味すると、 一定以上の役員報酬では法人に残して税率25〜30%で法人税を支払ったほうが、トータルで安くなるケースが多くあります。
財務の視点:金融機関の評価にも影響
金融機関は、決算書上の「営業利益」や「経常利益」を見て、企業の収益力を判断します。
法人の利益を圧縮しすぎると、
「この会社は利益が出ていない」
と判断され、結果として融資審査や信用評価に悪影響を及ぼすこともあります。
さらに、役員報酬はキャッシュアウトを伴うため、法人に現金が残りにくくなり、財務の健全性も下がるリスクがあります。
最適なバランスを取るための3つの観点
観点 | 検討ポイント |
税務 | 法人税・所得税・住民税・社会保険料をトータルで試算する |
財務 | キャッシュフローに支障が出ないか、金融機関からの見え方 |
将来戦略 | 内部留保の確保や借入・投資に耐えうる利益水準の維持 |
ケーススタディ:年商1億円・利益1,000万円の会社
社長に役員報酬をいくら支給するかによって、税負担やキャッシュ残高に大きな差が出ます。
役員報酬ゼロ → 法人税約300万円、社長個人は所得ゼロ(生活困難)
役員報酬1,000万円 → 法人税ゼロ、社長個人に所得税・住民税・社会保険で合計約400万円の負担
役員報酬600万円 → 法人利益400万円 → 法人税約100万円、社長の所得税等約150万円 → トータル負担250万円程度
→ 最もバランスが良いのは「法人に少し利益を残しつつ、個人の手取りも最大化できるポイント」を見つけることです。
税理士の視点:節税とキャッシュフローの両立がカギ
役員報酬を単なる節税策と捉えてしまうと、
社会保険料の増加で手取りが減る
キャッシュが法人・個人ともに圧迫される
銀行の融資が受けにくくなる
といったデメリットが生じます。
節税を「目的」にするのではなく、
「経営戦略の一部としての報酬設計」 を意識すべきです。
まとめ
内容 | 法人税負担 | 個人負担(所得税・社保) | 金融機関評価 | 総合バランス |
役員報酬を最大化 | ◯(軽減) | ✕(大幅増) | ✕(利益減) | △ |
適正水準で調整 | △(法人税発生) | ◯(負担抑制) | ◯(利益確保) | ◎ |
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