利益と資金繰りが一致しない理由|黒字倒産を防ぐ会計とキャッシュのズレ
- 近藤 祐輔

- 2025年9月18日
- 読了時間: 6分
はじめに
「決算は黒字なのに、通帳にはお金がない」「法人税を払うために資金をかき集めている」——。
このような声は、決して珍しいものではありません。黒字倒産という言葉があるほど、利益とお金の関係は複雑です。
この記事では、会計上の利益と実際の資金繰りがズレる原因を数値例とともに明らかにし、経営判断を誤らないための考え方を税理士の立場から対話形式でお伝えします。
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1. 「利益」と「現金」はなぜイコールではないのか?
社長: 決算書が黒字なのに、なぜ通帳にお金がないんですか?
税理士: 根本的な原因は、会計のルールと資金の動きが異なる仕組みで動いているからです。会計は発生主義(取引があったタイミングで計上)で、資金繰りは現金主義(お金の出入り)で動きます。この2つのズレが「黒字なのに現金がない」という状態を生みます。
社長: 具体的にどこでズレが生じるんですか?
税理士: 主に5つの要因があります。
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2. 利益とキャッシュがズレる5つの要因
① 売掛金・未収入金の増加
社長: 売上を計上しても入金が先にならないことがあります。
税理士: 典型的なズレの原因です。3月に1,000万円の売上を計上しても、入金が5月末であれば、決算期末には「利益は出ているが現金は未入金」という状態になります。売掛金の管理が甘いと黒字倒産のリスクが高まります。
② 在庫(棚卸資産)の増加
税理士: 商品や材料を仕入れると現金は出ていきますが、売れていない在庫は税務上の費用になりません。在庫が増えるほど利益は出て見えますが、キャッシュは減っています。
③ 設備投資・資産購入
税理士: 1,000万円の機械を購入しても、当期の費用になるのは減価償却費の部分だけです。たとえば耐用年数10年であれば年間100万円の費用計上にとどまりますが、現金は購入時に1,000万円が一括で出ていきます。
④ 借入金の元本返済
税理士: 元本返済は会計上は費用になりませんが、実際には現金が出ていきます。「黒字経営をしているのに、借入返済で資金が枯渇する」というケースがここから生まれます。
⑤ 法人税等の支払い
税理士: 今期黒字が出ると来期に法人税を納付しますが、中間納税も考慮していないと「予想外の現金流出」になりがちです。特に業績が急回復した年の翌期は注意が必要です。
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3. ケーススタディ:黒字決算でも現金が減る実例
社長: 数字で見るとどういう状態になるんですか?
税理士: 成長企業でよく見られるパターンを整理するとこうなります。
【ケーススタディ】年商2億円・成長期の企業
税引前当期純利益: +1,200万円(黒字)
しかし・・・
売掛金の増加: △ 600万円
在庫の増加: △ 300万円
設備投資(現金支出):△ 800万円
借入返済(元本): △ 500万円
法人税の納付: △ 250万円
実質キャッシュの増減:△1,250万円(減少)
社長: 利益が1,200万円出ているのに、実際には現金が1,250万円も減っているんですね。
税理士: これが「黒字倒産」の典型的なメカニズムです。特に売上が急成長している会社ほど、売掛金と在庫が膨らみやすいため注意が必要です。決算書の利益だけを見て「今期は好調だ」と判断すると、翌月の資金ショートに気づかないことがあります。
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4. 「節税すればお金が残る」は本当か?
社長: 節税をすれば手元にお金が残るんじゃないですか?
税理士: 節税の種類によっては、現金流出が加速するケースがあります。これは重要な視点です。
たとえば設備投資による節税(特別償却)は、費用を前倒しで計上できますが、現金は設備取得時に一括で出ていきます。保険を活用した節税も、保険料として現金が出ていきます。節税で税金を減らしても、現金そのものが出ていくため、手元資金は減ります。
社長: では節税はしない方がいいんですか?
税理士: そうではありません。優先すべきは税額控除(賃上げ促進税制など)のように、現金流出なしに税負担だけを減らせる節税です。現金を先に使う投資型の節税は、資金繰りへの影響を確認してから判断する必要があります。「節税=お金が増える」という思い込みは危険です。
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5. 経営者がとるべき3つのアクション
社長: このズレに対応するために、今すぐ何をすればいいですか?
税理士: 3つあります。
① 資金繰り表を定期的に作成・確認する
税務会計とは別に、実際のキャッシュの出入りを可視化する資料が必要です。月次試算表と連動した資金繰り表を顧問税理士と一緒に整備してください。
② 売掛金・在庫・設備投資に注目する
「お金が出ていっているが利益にならない」の典型例がこの3つです。月次で残高の推移を確認する習慣が、資金繰り悪化の早期発見につながります。
③ 金融機関への説明では「利益とキャッシュの違い」を伝える
融資審査ではキャッシュフローが重視されます。「黒字だけどお金がない理由」を財務諸表と合わせて説明できる体制が、銀行担当者の理解を深め、融資交渉を有利に進める土台になります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 利益とキャッシュのズレは、どのくらいの規模の会社でも起きますか?
規模に関わらず起きます。特に売上が急成長している会社・売掛金の回収サイトが長い業種(建設業・製造業)・設備投資が多い会社でリスクが高くなります。小規模な会社でも、売掛金1件の回収遅れが資金ショートに直結することがあります。
Q2. 決算書に加えて、何の資料を見れば資金の実態がわかりますか?
キャッシュフロー計算書(CF計算書)が最も直接的です。ただし中小企業の多くはCF計算書を作成していないため、月次試算表から売掛金・在庫・借入残高の増減を確認するか、資金繰り表を別途作成することをお勧めします。
Q3. 在庫が増えると利益が増えて見える、というのはなぜですか?
売れていない在庫は売上原価に含まれないため、在庫が増えると費用が少なくなり、結果として利益が大きく計上されます。仕入れた分だけ現金は出ていっているのに、費用として認識されないため「利益は出ているがお金がない」という状態になります。
Q4. 節税と資金繰りの関係で特に注意すべきことは何ですか?
投資型節税(設備投資・保険料の支出を伴うもの)は現金が先に出ていくため、節税額よりも現金流出が大きくなるケースがあります。税額控除など現金流出を伴わない節税を優先し、投資型節税は資金繰り表で影響を確認してから判断してください。
Q5. 法人税の中間納税で資金が苦しくなるのはなぜですか?
前期の実績をベースに中間納税が発生するため、当期の業績が落ちていても前期好調であれば多額の中間納税が求められます。この支出を見越して資金繰り表に組み込んでいないと、予想外の資金不足になります。前期が好業績だった場合は特に注意が必要です。
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