銀行が重視する「流動比率」と「当座比率」とは~資金繰りの健全性はこの2つで見抜かれる~
- yusukekondo9
- 10月2日
- 読了時間: 4分
決算書に出てくる「流動比率」「当座比率」。税務署がそれほど重視しないこの指標、実は銀行が融資判断で極めて重要視する財務指標です。
本記事では、税理士としての立場から、銀行がどのようにこの2つの比率を見ているのか、そして企業がどう改善していけば良いかを解説します。
I. 流動比率・当座比率とは何か?
▶ 流動比率(Current Ratio)
流動資産 ÷ 流動負債 × 100(%)
短期的な支払能力を示す指標
基本的に1年以内の資産で1年以内の負債を返済できるかを示す
📌 流動比率が高いほど、会社が短期の債務を問題なく返済できると判断されます。
▶ 当座比率(Quick Ratio)
当座資産 ÷ 流動負債 × 100(%)
当座資産=流動資産のうち、現預金・売掛金など「すぐに現金化できる資産」
流動比率よりもさらに厳格な支払能力の指標
📌 在庫や前払金など、現金化に時間がかかる資産を除いて計算します。
II. 銀行がこの指標を見る理由
銀行は企業にお金を貸す立場として、次の2点を非常に気にします。
短期的に返済不能になるリスクがないか?
本当にキャッシュに変えられる資産をどれだけ持っているか?
流動比率や当座比率は、「現金の余裕」や「支払能力の健全性」を数値で示す指標であるため、企業の短期的な倒産リスクを図る材料として非常に重視されます。
III. 目安となる数値は?
指標 | 安全水準の目安 | 銀行の見方 |
流動比率 | 200%以上 | 余裕あり(理想) |
流動比率 | 100~200% | 通常範囲(健全) |
流動比率 | 100%未満 | 注意(支払能力に懸念) |
当座比率 | 100%以上 | 健全(理想) |
当座比率 | 70~100% | そこそこ。ただし業種により注意 |
当座比率 | 70%未満 | 要注意。短期資金繰りに懸念あり |
IV. 実際の例で比較
ある中小企業の貸借対照表(要約):
項目 | 金額 |
現金預金 | 300万円 |
売掛金 | 500万円 |
棚卸資産 | 400万円 |
流動資産合計 | 1,200万円 |
流動負債 | 1,000万円 |
この会社の指標は?
流動比率:1,200 ÷ 1,000 × 100 = 120%
当座比率:(300 + 500)÷ 1,000 × 100 = 80%
👉 見た目は健全に見えますが、当座比率が80%なので、在庫に大きく依存している構造であることが分かります。
V. 改善策|比率を良く見せるには?
① 流動負債を減らす
短期借入金の長期借入化(リスケではなく条件変更)
返済スケジュールの見直しで、バランスシート上の流動性を改善
📌 銀行交渉の成果がここに反映されます。
② 売掛金の早期回収
回収サイトを短くする
ファクタリングや売掛金保証制度(例:日本商工会議所連合会の制度、東京商工リサーチ連携の債権保証など)を活用する手も
③ 棚卸資産の圧縮
期末在庫が多すぎると、流動比率には貢献しますが、当座比率では除外されます→ 売れない在庫は「資産ではなくリスク」
④ 不要な前払費用を削減
保険料の年払い、家賃の前払などは現金を減らす要因になります→ キャッシュを手元に残すことで、当座比率は上がります
VI. 銀行向けにはどう「見せる」か?
月次ベースでの推移を提示すると「改善努力」が伝わります
当座比率が低くても、「売掛金の回収確度が高いこと」などを別紙で補足すると印象が変わります
担保の存在や、オーナーの個人資産との連動も交渉材料になります
VII. 税理士としての支援ポイント
資金繰り実態に基づいた財務比率の分析と説明書類の作成
決算書の見せ方改善(仮払金・未収項目・不要資産の整理)
金融機関向け財務報告書(BS分析+資金繰り表)の作成
まとめ|“見せ方”と“中身”の両方が大切
流動比率・当座比率は、会社の短期的な生存力を示す数字です。銀行はその数字で「この会社に貸して大丈夫か?」を判断します。
経営者として、単に「黒字にすること」だけでなく、数字の意味を理解し、銀行の視点を意識することが今後の資金調達の命運を握ります。
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