top of page

出口を見据えた財務体質づくり|M&A・事業承継で評価される会社の条件

執筆者の写真: 近藤 祐輔
近藤 祐輔
14 時間前
読了時間: 8分

出口を見据えた財務体質づくり

― M&A・事業承継で評価される会社の条件

「年商1億から5億へ」シリーズ 第13回


はじめに


社長「会社を売るつもりはないので、M&Aは自分には関係ない話だと思っています。」


近藤 そう考える経営者は多いです。今すぐ売却する予定がなければ、まだ先の話に感じるのは自然です。ただ、私は会社が成長している段階から、少しずつ「出口」を意識しておくことに大きな意味があると考えています。


社長「出口というのは、会社を売ることだけを指すんじゃないんですか?」


近藤 いいえ。子どもに会社を引き継ぐ、社員や役員に経営を任せる、第三者へ売却する、あるいは自分が第一線を離れても会社が成長し続ける仕組みをつくる。いずれも経営者にとっての出口です。そして、こうした選択肢を将来持てるかどうかは、会社の財務体質で大きく変わります。「今いくら儲かっているか」だけでなく、「将来、誰かが引き継ぎたいと思える会社になっているか」。今回はこの視点から考えてみます。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


第1章 会社の価値は、売上の大きさだけでは決まらない


社長「年商1億円の会社と5億円の会社なら、5億円の会社の方が価値があるのは当然じゃないですか?」


近藤 売上だけを見ればそうですが、売却や承継を考えると、必ずしもそうとは限りません。例えば、年商5億円・営業利益500万円・借入金2億円で、社長が営業の大半を担当している会社と、年商3億円・営業利益3,000万円・借入金5,000万円で、幹部社員が営業や現場を管理し、社長が不在でも日常業務が回る会社があったとします。


社長「売上だけ見れば前者が大きいですが、買う側から見ると後者の方が魅力的に見えそうですね。」


近藤 その通りです。利益率が高い、借入負担が小さい、経営者への依存度が低い、将来の利益を予測しやすい。会社の価値を考えるときには、こうした要素が重要になります。会社を大きくすることと、会社の価値を高めることは、必ずしも同じではないんです。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


第2章 企業価値を考える3つの視点


社長「じゃあ、会社の価値って、具体的には何を見て決まるんですか。」


近藤 大きく3つの視点があります。1つ目は収益力、つまりこれからいくら稼げる会社なのかです。M&Aでは営業利益やEBITDA(営業利益に減価償却費などを加えた指標)を参考に評価されることがあります。ただし、一時的な利益ではないか、社長が退任しても維持できる利益なのかも重要です。

2つ目は財務の安全性です。自己資本は十分か、手元資金に余裕があるか、借入金は過大ではないか、売掛金や在庫に問題はないか。いくら利益を出していても、借入返済に追われ手元資金が不足していれば、引き継ぐ側は慎重になります。


社長「3つ目は何でしょうか。」


近藤 事業の継続性です。毎年3,000万円の利益を出していても、そのほとんどが社長個人の営業力によるものなら、社長が退任した後に同じ利益を維持できるとは限りません。「どれだけ安全な会社か」と「どれだけ稼ぐ力がある会社か」、そして「その稼ぐ力が続くのか」は、それぞれ別に考える必要があるんです。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


第3章 借入金と現預金で、株式の価値はどう変わるのか


社長「借入金が多いと、M&Aでは不利になりますか?」


近藤 借入金があること自体が問題なのではありません。借入金が1億円あっても、現預金が1億5,000万円あり、安定して利益を生んでいる会社なら、むしろ余裕があります。反対に、借入金が3,000万円でも、預金がほとんどなく毎月の返済に苦しんでいる会社もあります。借入残高だけで財務の良し悪しは判断できません。


社長「同じ事業で同じ利益を出していても、財務の状況で価値が変わることはあるんですか。」


近藤 あります。非常に単純化した例ですが、次の2社を比べてみましょう。


A社

B社

事業価値

1億円

1億円

現預金

5,000万円

1,000万円

有利子負債

2,000万円

6,000万円

株式価値の概算

1億3,000万円

5,000万円


事業価値に現預金を加え、有利子負債を差し引いて株式価値を概算しています。同じ事業で同じ利益を生み出していても、現預金と借入金の状況によって、株式の価値は大きく変わり得るということです。ただし、実際のM&Aでは必要運転資金や余剰現金の調整が行われますし、預金で借入を返済しただけで株式価値が自動的に増えるわけでもありません。あくまで考え方の整理として見てください。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


第4章 「社長がいないと回らない会社」は評価されにくい


社長「うちは、正直、営業も主要取引先との交渉も、ほぼ私がやっています。」


近藤 その状態は、社長の能力で大きく成長できる一方で、社長がいなくなった瞬間に経営が不安定になる可能性があります。買収する側から見れば大きなリスクですし、親族や社員が引き継ぐ場合でも同じ問題があります。


社長「じゃあ、どうすればいいんでしょうか。」


近藤 会社が成長してきたら、少しずつ社長の仕事を組織へ移していくことです。営業の仕組みをつくる、幹部を育てる、顧客情報を会社で管理する、業務を標準化する、月次決算やKPIで社長以外の人も数字で判断できるようにする。第9回「『なんとなく儲かっている』から卒業する」でお話ししたKPI経営も、実はこの問題につながっています。「社長が優秀だから儲かる会社」から「組織として利益を生み出せる会社」へ。この変化が、将来の会社の価値を大きく左右します。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


第5章 決算書の「見えにくい問題」と経営者保証を整理する


社長「決算書の中身も、M&Aのときに見られるんですよね。」


近藤 はい。特に第三者へのM&Aでは、買い手が財務・税務・法務などの調査(デューデリジェンス)を行うことがあります。そのときに問題になりやすいのが、長年放置されてきた会計上の項目です。回収の見込みがない売掛金、実際には使っていない固定資産、長期間動いていない在庫、内容が不明確な仮払金、社長や関係会社との貸付金・借入金。こうした項目が残っていると、会社の実態を正しく評価しにくくなります。


実際にご相談いただいたある製造業の会社では、事業承継を意識し始めたタイミングで決算書を見直したところ、長年残っていた仮払金と社長への貸付金が見つかりました。日常の経営では問題になっていませんでしたが、承継の場面では整理が必要な項目でした。


社長「そう言えば、会社の借入には私の個人保証も付いています。これも承継のときに問題になりますか。」


近藤 大きな課題の一つです。後継者にとって、多額の借入金を個人で保証するのは大きな負担になりますし、第三者へのM&Aでも、売却後に旧経営者の保証が残らないよう金融機関との調整が必要です。経営者保証を外せるかどうかは金融機関の判断や個別の条件によりますが、法人と経営者個人の資産・経理を明確に分け、会社の財務基盤を強化し、適切な財務情報を開示しておくことは、将来の保証見直しに向けた土台になります。会社を引き継ぐということは、株式を引き継ぐだけでなく、後継者が安心して経営できる環境を整えることでもあるんです。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


第6章 出口を意識すると、今の経営判断が変わる


社長「具体的に、今から何から始めればいいんでしょうか。」


近藤 5つあります。毎期、安定して利益を残すこと。自己資本と手元資金を厚くすること。社長への依存度を下げること。決算書の中身をきれいにすること。そして、親族承継なのか社員承継なのか第三者への売却なのか、将来の選択肢を意識しておくこと。これらはM&Aをする会社だけに必要なことではなく、普段の経営を強くする取り組みそのものです。

社長「例えば今期3,000万円の利益が出そうなとき、考え方は変わるんでしょうか。」


近藤 変わります。これまでなら「いくら節税できるか」を中心に考えていたかもしれませんが、出口を意識すると、この利益を会社に残せば自己資本がどれくらい増えるのか、借入金をどれくらい減らせるのか、社長が現場から離れるためにどんな仕組みをつくれるのか、という別の問いが生まれます。節税を優先しすぎて毎期利益を小さくしていると、継続的に利益を生み出せていることを説明しにくくなり、資金余力も小さくなります。「今年の税金をいくら減らすか」ではなく、「5年後にどのような会社を残したいか」という視点です。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


まとめ


年商5億円になったからといって、それだけで会社の価値が高くなるわけではありません。継続的に利益を生み出せること、自己資本が厚いこと、手元資金に余裕があること、決算書の内容が明確であること、社長がいなくても組織が回ること。こうした条件がそろって初めて、誰かが安心して引き継げる会社に近づいていきます。


今すぐ会社を売却する予定がなくても、後継者が決まっていなくても構いません。日々の経営判断の中に、「この判断は、5年後の会社の価値を高めるだろうか」という視点を一つ加えてみてください。そして、「いつでも売れる会社」をつくることは、「売らずに経営を続ける自由」を持つことにもつながります。出口を意識することは、経営を終わらせる準備ではなく、将来の選択肢を増やすための経営なのです。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


よくあるご質問


Q. 自社の企業価値を知りたい場合、いつ頃から確認すればよいですか?

A. 売却や承継の時期が決まっていなくても、早めに一度概算を把握しておくことで、課題を整理しやすくなります。専門家による評価方法には複数あり、目的によって適した方法も異なります。


Q. 経営者保証は必ず外せるものですか?

A. 金融機関の判断や個別の条件によって異なります。ただし、法人と個人の資産・経理を分けるなど、財務基盤を整えておくことは、将来の保証見直しに向けた土台になります。


Q. 決算書の見えにくい問題は、いつ頃から整理を始めるべきですか?

A. 承継やM&Aの具体的な話が出てからでは時間が足りないことが多いため、日頃の決算の中で少しずつ整理しておくことをおすすめします。


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

【顧問税理士にこんなお悩みはありませんか?】

  • 税金の話はしてくれるが、財務・資金の話をしてくれない

  • 銀行との付き合い方や融資対応についても相談したい

  • 代表税理士と話したことがない

  • 担当者が頻繁に変わり、毎回一から説明している

  • コミュニケーションが取りにくく、経営に関する相談ができない


近藤祐輔税理士事務所では、税務だけでなく財務・資金戦略・銀行対応まで、代表税理士が直接担当します。

初回面談(30分)では、現在の財務・資金繰りの状況をお聞きし、改善の糸口をお伝えします。無料・秘密厳守。

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント


近藤祐輔税理士事務所

Yusuke Kondo Tax Accounting Office

〒279-0023 千葉県浦安市高洲8丁目1番714

​TEL:050-1785-6288

©2026 近藤祐輔税理士事務所

bottom of page