「なんとなく儲かっている」から卒業する|KPI経営で会社の実態を掴む方法

「なんとなく儲かっている」から卒業する
― KPI経営で会社の実態を掴む方法
「年商1億から5億へ」シリーズ 第9回
はじめに
社長「今月も売上は悪くないですし、仕事もかなり入っています。預金もそれなりにありますし、たぶん会社は儲かっていると思います。」
近藤 その「たぶん」が、今日のテーマです。会社がまだ小さいうちは、その感覚は意外と当たります。社長自身が営業をして、現場にも出て、請求書も見ている。会社のほとんどの情報が、社長の頭の中に入っているからです。
社長「でも、それの何がいけないんでしょうか。今のところ大きな問題は起きていませんし。」
近藤 断言します。年商1億円を超え、3億円、5億円と成長していくと、その前提は崩れます。社員が増え、取引先が増え、商品やサービスが増える。社長がすべてを見ることは難しくなり、「売上は伸びているのに、思ったほど利益が残っていない」ということが起こり始めます。そこで必要になるのが、KPIという考え方です。
今回は、会社の実態を数字で掴み、「なんとなく儲かっている経営」から卒業する方法についてお話しします。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第1章 年商1億円を超えると、社長の感覚だけでは見えないものが増える
近藤 誤解しないでいただきたいのですが、「感覚で経営することが悪い」という話ではありません。お客様の反応、社員の状態、競合の動き、市場の変化。こうしたものを肌で感じながら判断することは、経営者にしかできません。問題は、会社が大きくなっても、その感覚だけに頼り続けることです。
社長「感覚に頼りすぎると、具体的にどんな問題が起きるんですか。」
近藤 例えば、「最近、営業がかなり忙しそうだから売上も伸びるだろう」と思っていても、実際には商談件数は増えているのに受注率が下がっているかもしれません。「売上が増えているから順調だ」と思っていても、値引きが増えて粗利益率は下がっているかもしれません。会社が大きくなるほど、社長から見えない場所が増えていきます。その見えない部分を数字で補うことが、KPIを使う一つの意味です。
社長「うちも正直、感覚だけで『何となく大丈夫』と判断していることが多い気がします。」
近藤 多くの経営者がそうです。だからこそ、次にお話しするKPIという考え方が役に立ちます。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第2章 KPIとは「経営に必要な数字」を決めること
社長「KPIというと、何だか難しい経営管理の仕組み、というイメージがあります。」
近藤 本質はそれほど難しくありません。KPIとは、簡単に言えば「会社が目標に向かって進んでいるかを確認するための重要な数字」です。売上は「結果」であり、KPIはその結果が生まれる途中の数字。この違いが非常に重要です。
例えば、問い合わせが来る、商談をする、受注する、商品やサービスを提供する、売上になる、という流れがあります。問い合わせ件数、商談件数、受注率、平均単価といった数字を確認すれば、売上が増えた理由、減った理由が見えてきます。
社長「結果だけを見ていると、何が問題なんでしょうか。」
近藤 対策が遅れます。月商3,000万円が目標のところ、実績は2,500万円だったとします。「来月は営業を頑張ろう」と言っても、具体的に何を変えればよいか分かりません。一方で、商談件数は計画どおり、平均単価も変わっていないが、受注率が30%から20%へ下がっている、というところまで分解できれば、確認すべきことは明確になります。結果が出てから考えるのではなく、その途中で異変に気づけることが、KPIを見る最大のメリットです。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第3章 まず見たい3つの財務KPI
社長「うちのような会社が、まず見るべき数字を教えてください。」
近藤 業種によって最適なKPIは変わりますが、年商1億円から5億円を目指す会社であれば、まず確認しておきたい財務KPIが3つあります。
1つ目は限界利益率です。売上から、仕入や外注費など売上に連動して増減する変動費を差し引いたものが限界利益で、売上1,000万円・変動費600万円なら限界利益率は40%になります。売上が増えているのに利益が増えない会社では、この限界利益率が下がっていることがよくあります。
2つ目は労働分配率です。会社が生み出した利益のうち、どれくらいを人件費に使っているかを見る数字で、人件費そのものではなく、利益と人件費のバランスを見る必要があります。第2回でお話しした「人が増えるほど利益が残らなくなる」という問題も、この数字で早く気づけることがあります。
社長「3つ目は何でしょうか。」
近藤 回転期間です。売掛金や在庫がどれくらいの期間で現金に変わっているかを見る数字で、これまで平均1か月で回収していたのが、いつの間にか1.5か月、2か月と長くなっていないかを確認します。売上に対して適正な増え方かどうかを見ることが重要です。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第4章 業種によって「見るべきKPI」は変わる
社長「今の3つは、業種を問わず共通ということですね。」
近藤 その通りです。ただ、実際に経営を改善するためには、自社のビジネスモデルに合ったKPIを持つことも重要になります。同じ売上1億円でも、利益が生まれる仕組みは業種によってまったく違うからです。代表的な業種で見ると、次のような数字が挙げられます。
業種 | 主に見たいKPIの例 |
建設業 | 工事別粗利益率、受注残高、外注費率、工期の進捗率 |
卸売業・小売業 | 商品別粗利益率、在庫回転率、値引率、不良在庫の金額 |
飲食業 | 客数・客単価、席回転数、原価率、FL比率、店舗別営業利益 |
IT・システム開発業 | プロジェクト別粗利益率、エンジニア稼働率、外注比率 |
コンサル・士業などサービス業 | 顧客単価、一人当たり粗利益、稼働率、継続率 |
EC・通販事業 | 顧客獲得コスト、リピート率、広告費率、商品別粗利益率 |
社長「なるほど、うちの業種だとどれを見ればいいのか、正直まだピンときていません。」
近藤 実際にご相談いただいた建設業の会社では、会社全体の粗利益率は把握していても、工事別の粗利益率までは見ていませんでした。受注時の見積り段階の想定利益率と、完工時の実際の利益率を比べてみたところ、外注費が想定より膨らんでいた工事がいくつも見つかり、その原因を追いかけることで、次の見積り精度が大きく改善しました。
「一般的にこのKPIが重要らしい」という理由だけで数字を追いかけるのではなく、自社がどのような仕組みで利益を生み出しているのかから逆算して決めることが大切です。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第5章 KPIは「決めること」より「毎月運用すること」が重要
社長「KPIを決めたら、それで終わりというわけではないんですよね?」
近藤 そこが一番大事なところです。KPIは決めただけでは経営は変わりません。重要なのは、同じ数字を毎月継続して確認し、その変化から次の行動を決めることです。最初から立派なダッシュボードを作る必要はなく、Excelで十分です。重要なKPIを5〜10項目程度に絞り、「目標」「当月実績」「前月実績」を並べるだけでも、変化は一目で分かるようになります。
社長「数字が悪かったとき、どう対応すればいいんでしょうか。」
近藤 「今月は利益率が悪かった」で終わらせず、原因まで確認してください。仕入価格が上がったのか、外注費が増えたのか、値引きが増えたのか。原因が分かったら、「誰が」「何を」「いつまでに行うのか」まで決める。そして翌月の会議では、新しいKPIを見る前に「前回決めたことは実行されたのか」を確認します。この、数字を見る→原因を考える→行動する→結果を確認する、という繰り返しが、月次決算を経営のPDCAに変えていきます。
もう一つ注意したいのは、単月の数字だけで判断しないことです。今月だけ利益率が下がっても、それは大型案件や季節要因かもしれません。数か月連続で下がっているなら、収益構造そのものに変化が起きている可能性があります。少なくとも直近数か月の推移で見てください。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
第6章 「社長しか分からない会社」から卒業する
社長「これを全部、自分一人で集計して見ていく必要があるんでしょうか。正直、時間が取れるか不安です。」
近藤 その必要はありません。会社が成長すると、営業の数字は営業責任者、在庫の数字は商品管理担当者というように、それぞれの数字に責任者を決めていきます。経営者がやるべきなのは、すべての数字を自分で作ることではなく、「会社として何の数字を見るのか」を決め、その数字を使って意思決定することです。
社長「そうやって共有していくと、何が変わるんでしょうか。」
近藤 どの数字を重視するのか、どこまでなら許容できるのか、何が起きたら対応するのか。それを数字で共有することで、社長の判断基準を少しずつ組織に移していけます。KPI経営は、数字を管理する仕組みであると同時に、会社を「社長一人で経営する状態」から「組織で経営する状態」へ変えていく仕組みでもあるんです。毎月1時間でもいいので、数字から経営を考える時間を意識的につくってみてください。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
まとめ
会社が小さいうちは、経営者の感覚だけでも会社の状態を把握できます。しかし、年商1億円、3億円、5億円と成長するにつれて、社長から見えない場所が増えていきます。
そこで必要になるのがKPIです。売上や利益という結果だけを見るのではなく、その結果が生まれる途中の数字を見る。財務の数字と現場の数字をつなげる。そして、数字が変わったら次に何をするのかを決める。KPI経営とは、数字をたくさん管理することではなく、会社の状態を早く把握し、経営者が正しい意思決定をするための仕組みです。
「なんとなく儲かっている」から、「なぜ儲かっているのか分かっている」へ。さらに「どうすればもっと利益を生み出せるのか分かっている」という状態へ。年商5億円を目指す会社にとって、この違いは非常に大きいのではないでしょうか。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
よくあるご質問
Q. KPIはいくつくらいから始めればいいですか?
A. 最初から多くの指標を管理しようとすると続きません。経営上、特に重要なものを5〜10項目程度に絞って始めることをおすすめします。運用しながら、本当に必要な数字を見極めていくのが現実的です。
Q. 業種特有のKPIは、自分で決めるものですか?
A. 一般的な業種別の指標を参考にしつつ、最終的には自社の利益が生まれる仕組みに合わせて調整するのが理想です。最初は一般的な指標から始め、運用しながら自社に合った形に育てていくという進め方でも問題ありません。
Q. KPIの集計や資料作成は、税理士に任せられますか?
A. 会計データと連動する指標であれば、月次の試算表作成と合わせて整理できます。現場側で管理する指標(商談件数など)と組み合わせて、経営会議用の資料としてまとめるお手伝いも可能です。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
【顧問税理士にこんなお悩みはありませんか?】
税金の話はしてくれるが、財務・資金の話をしてくれない
銀行との付き合い方や融資対応についても相談したい
代表税理士と話したことがない
担当者が頻繁に変わり、毎回一から説明している
コミュニケーションが取りにくく、経営に関する相談ができない
近藤祐輔税理士事務所では、税務だけでなく財務・資金戦略・銀行対応まで、代表税理士が直接担当します。
初回面談(30分)では、現在の財務・資金繰りの状況をお聞きし、改善の糸口をお伝えします。無料・秘密厳守。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



コメント