役員報酬を節税だけで決めると会社が弱くなる理由と最適設計
- 近藤 祐輔

- 3月12日
- 読了時間: 7分
更新日:5月13日
はじめに
「今年は利益が出そうなので、役員報酬を上げようと思っています。法人税を払うくらいなら個人でもらった方がいいですよね?」
この発想は一見合理的に見えます。しかし節税だけを目的に役員報酬を決めると、会社の財務は確実に弱くなります。
役員報酬は社長の給料であると同時に、会社の財務戦略です。節税・所得税・社会保険・財務・銀行評価の5つを同時に考えることが、正しい設計の出発点です。
今回は社長と税理士の対話形式で、役員報酬を節税ツールにしてしまうことの問題点と、最適な設計の考え方を解説します。
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1. 役員報酬を上げると「トータルの税負担」が増えるケースがある
社長: 役員報酬は会社の経費になりますよね?だったら上げた方が節税になりますよね?
税理士: 会社では損金になりますが、社長個人では以下の負担が増えます。
所得税(累進課税・最高45%)
住民税(一律約10%)
社会保険料(会社・個人の折半)
役員報酬を上げると、法人税の軽減額より個人の税・保険料の増加額が上回るケースが普通にあります。
社長: 具体的にはどのくらいから逆転しますか?
税理士: 個人の所得税率と法人税率が拮抗するのは、課税所得が概ね800万〜900万円を超えるあたりです。ただし社会保険料を含めたトータルの負担率は、役員報酬の水準・家族構成・法人の利益水準によって大きく変わるため、必ず個別にシミュレーションして判断することが重要です。
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2. 役員報酬を上げすぎると「会社の財務」が弱くなる
社長: でも節税できるならいいのでは?
税理士: 問題はそこだけではありません。役員報酬を増やすと、会社の財務に以下の影響が出ます。
役員報酬を増やす
↓
会社の利益が減る
↓
内部留保(利益剰余金)が積み上がらない
↓
自己資本比率が上がらない
↓
銀行評価が下がる・融資条件が悪化する
社長: 銀行評価ってそんなに関係あります?
税理士: かなり関係あります。銀行は経常利益・自己資本・キャッシュフローを見ています。役員報酬を取りすぎている会社は「利益が残らない会社」と評価されます。
また、現金支出を伴う節税全般に言えることですが、税金が減る以上のキャッシュが会社から流出します。たとえば役員報酬を100万円増やした場合、法人税の軽減が30万円でも、社会保険料(会社負担)が15万円増えます。差し引きで会社のキャッシュは85万円以上の流出になります。
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3. 成長フェーズ別の役員報酬の考え方
社長: 会社の規模によって、役員報酬の考え方は変わりますか?
税理士: 変わります。成長フェーズによって優先すべきことが異なります。
フェーズ | 主な優先事項 | 役員報酬の考え方 |
〜年商1億円 | キャッシュの確保・生存 | 生活費を確保しつつ会社にも資金を残す |
年商1〜3億円 | 利益の蓄積・財務体質の強化 | 内部留保を積み上げることを意識し始める |
年商3〜5億円 | 銀行評価・融資力の強化 | 自己資本比率・債務償還年数を意識した設計 |
年商5億円〜 | 財務戦略・M&A・事業承継 | 企業価値への影響まで含めた総合設計 |
社長: 年商が上がるにつれて、個人よりも会社に残す意識が強くなるということですね。
税理士: そうです。年商1億円の段階では「とにかく生活費を確保する」が最優先ですが、年商3億円を超えてくると「会社の財務体質をどう作るか」という視点が不可欠になります。
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4. 役員報酬設計でよくある失敗パターン
社長: よくある失敗を教えてもらえますか?
税理士: 以下の4つが典型的です。
① 節税目的で役員報酬を上げすぎる
税金は減るが会社の利益が残らず、自己資本比率が低下します。結果として融資が伸びない会社になります。
② 社会保険料を計算に入れていない
役員報酬を上げると社会保険料(会社・個人の折半)も増えます。社保を含めたトータルのコストで判断しないと、思ったより手取りが増えないケースがあります。
③ 毎年報酬額を大きく変動させる
役員報酬は原則として事業年度開始後3か月以内に決定し、年度内の変更は原則できません。毎期「利益が出たから上げる・出なかったから下げる」という設計は税務上も問題になります。
④ 家族役員への分散を実態なく行う
配偶者などへの役員報酬は、実際の職務執行が伴わないと税務調査で否認されるリスクがあります。
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5. 最適な役員報酬設計の3つの問い
社長: 最適な役員報酬を決めるために、何を考えればいいですか?
税理士: 以下の3つの問いに答えることが出発点です。
① 役員報酬の税引後キャッシュを計算しているか?
報酬額ではなく、所得税・住民税・社会保険料を差し引いた「実際に手元に残る金額」で判断することが重要です。
② 社会保険まで含めた負担率を把握しているか?
役員報酬に連動して増える社会保険料(会社負担分)も「会社のコスト」です。人件費として計算に入れた上で判断することが必要です。
③ 会社の内部留保とのバランスを考えているか?
「今期いくら個人に取るか」ではなく「今後の成長・投資・銀行評価のために会社にいくら残すか」という視点で設計することが、財務戦略としての役員報酬設計の本質です。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 役員報酬を下げて会社に利益を残す戦略は有効ですか?
成長フェーズにある会社にとっては有効な戦略です。内部留保を積み上げることで自己資本比率が上がり、銀行評価の改善・融資条件の優遇につながります。ただし個人の生活費・社会保険・老後の資金計画との兼ね合いも考慮した上で判断することが必要です。
Q2. 役員報酬の最適額はどうやって計算しますか?
法人税・所得税・住民税・社会保険料・給与所得控除などの複数の要素が絡み合うため、正確なシミュレーションには専門知識が必要です。毎期の利益見通しと合わせて税理士にシミュレーションを依頼することをお勧めします。
Q3. 役員報酬を上げるタイミングに制約はありますか?
事業年度開始後3か月以内であれば変更できます。それ以外の時期での変更は原則として損金不算入になります。毎期の最初に「今期の利益見通し」と「会社に残したい利益額」をセットで検討することが重要です。
Q4. 社会保険料の会社負担はどのくらいですか?
役員報酬(標準報酬月額)の概ね15%程度が会社負担の社会保険料の目安です。たとえば月額100万円の役員報酬であれば、会社負担の社会保険料は月約15万円(年約180万円)になります。役員報酬の増加は個人の手取りだけでなく、会社のキャッシュアウトも増やします。
Q5. 役員報酬と役員賞与の使い分けはどうすればいいですか?
役員報酬(定期同額給与)は毎月一定額を支給する安定的な報酬です。役員賞与(事前確定届出給与)は業績に応じて支給する変動的な報酬ですが、事前に税務署への届出が必要です。業績の良い年だけ賞与で上乗せするという柔軟な設計も可能ですが、届出要件が厳格なため税理士と事前に十分な打ち合わせが必要です。
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まとめ
役員報酬を節税目的だけで上げると、個人の税・社保増加でトータル負担が増えるケースがある
会社の利益が残らず内部留保が積み上がらない→自己資本比率低下→銀行評価悪化という連鎖が起きる
現金支出を伴う節税は税効果を超えるキャッシュが会社から流出する
成長フェーズによって「個人に取る」vs「会社に残す」の最適バランスは変わる
年商3億円を超えたら「自己資本比率・債務償還年数を意識した設計」が必要になる
よくある失敗は①上げすぎ②社保を無視③毎年大きく変動④実態なき家族分散
役員報酬は節税ツールではなく財務戦略です。「今期いくら個人に取るか」ではなく「会社の成長のためにいくら残すか」という視点で設計することが、財務体質を強化しながら成長する経営の基本です。
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