減価償却費とキャッシュのズレ|銀行が見る返済余力の正体
- 近藤 祐輔

- 1月8日
- 読了時間: 7分
更新日:3 日前
はじめに
「利益は出ているはずなのに、なぜかお金が残らない・・・」
年商3億円前後の会社を経営していると、こんな違和感を抱くことがあります。 その原因の多くは、「利益」と「現金(キャッシュ)」の動きが一致しないという会計の仕組みにあります。
そして、そのズレを生み出す最大の要因の一つが減価償却費です。
減価償却費という言葉は知っていても、経営上どのような影響を与えるか正しく理解できている経営者は意外と少ないものです。今回は社長と税理士の対話形式で、減価償却費が資金繰りに与える影響と、銀行がその数字をどう読んでいるかを解説します。
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1. 減価償却費とは何か?
社長: 先生、減価償却費って決算書に毎年出てきますけど、正直よくわかっていなくて。要は「経費の一種」ですよね?
税理士: 経費の一種ではありますが、他の経費とは根本的に性質が違います。まずそこを押さえましょう。
機械・車両・建物など、長期間使用する固定資産は、購入時に一括で費用にせず、数年に分けて少しずつ費用として計上していきます。これが「減価償却」であり、各年に計上される費用が「減価償却費」です。
区分 | 意味 |
会計上の意味 | 固定資産の取得コストを耐用年数にわたって費用配分する |
税務上の意味 | 法律で定められた方法・期間により損金として処理する(定率法・定額法など) |
社長: なるほど。買ったときに全部経費にできないから、毎年少しずつ経費にしていくってことですね。
税理士: そうです。ただ、重要なのは「費用として計上されるタイミング」と「現金が出ていくタイミング」がズレているという点です。これが利益とキャッシュのズレの正体です。
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2. 「費用だけどお金は出ていかない」という特殊な経費
減価償却費の最大の特徴は、損益計算書(PL)には費用として計上されるが、その年に現金は出ていかないという点です。
<具体例で確認>
1,000万円の機械を購入し、10年で償却する場合(定額法)
年度 | 減価償却費(費用) | 実際の現金支出 |
購入年 | 100万円 | 1,000万円 |
2年目 | 100万円 | 0円 |
3年目 | 100万円 | 0円 |
… | … | … |
10年目 | 100万円 | 0円 |
社長: つまり、2年目以降はお金を使っていないのに、毎年100万円が経費として計上されるということですか?
税理士: その通りです。だから「帳簿上の利益は小さい」のに「手元の現金は思ったより残っている」という現象が起きるんです。逆に言えば、購入した年は現金が大きく出ていくのに、その影響が利益には直接出てこない。
社長: それが「利益とキャッシュのズレ」の正体なんですね。
📌 ポイント: 減価償却費は「現金を使わずに利益を減らせる唯一の経費」。この性質を理解しているかどうかで、資金繰りの読み方が変わります。
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3. 減価償却費と資金繰りの関係
減価償却費は資金を"生む"指標
営業キャッシュフローを簡易的に計算するとき、最初に足し戻すのが減価償却費です。
営業利益 500万円
+ 減価償却費 200万円
──────────────────────────
実質キャッシュ創出力 700万円社長: 利益500万円なのに、実際には700万円分のお金を生み出しているってこと?
税理士: そうです。利益だけ見ていると資金力を過小評価してしまいます。減価償却費が大きい会社は、利益の数字より実態としてお金が残りやすい体質です。
税金面でも有利
減価償却費は損金(費用)として認められるため、課税所得を圧縮し、法人税の節税効果もあります。現金を使わずに税金を減らせるという意味で、財務戦略上も重要な項目です。
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4. 経営判断に使える「減価償却費の読み方」
① 償却費の対売上比・対営業利益比で事業構造を把握する
比率 | 意味 |
高い | 設備依存度が高く、固定費負担の重い事業構造 |
低い | 省資本・人材集約型ビジネスの可能性 |
製造業や建設業などは減価償却費の比率が高くなりやすく、この数字が経営の重さを表すバロメーターになります。
② 「減価償却費 > 設備投資額」なら資金が残る体質
社長: 減価償却費と設備投資額を比べるとどんなことがわかるんですか?
税理士: 毎年の設備投資額が減価償却費を下回っていれば、キャッシュフロー的に余裕がある状態です。逆に設備投資額が償却費を大きく上回り続けると、利益が出ていても資金が細っていきます。設備依存型の事業では特に重要な視点です。
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5. 銀行は「利益」ではなく「返済余力」を見ている
社長: 銀行って、決算書のどこを一番見ているんですか?
税理士: 銀行が最初に計算するのは「この会社が借入金を返せるか」という返済余力です。そのときに使う指標が EBITDA(営業利益+減価償却費)です。
EBITDA(返済余力の基準)の計算例
営業利益 500万円
+ 減価償却費 200万円
────────────────────────
EBITDA 700万円
年間元本返済額 300万円
返済余力(DSCR) 700万円 ÷ 300万円 = 約2.3倍 → 十分な返済余力あり社長: じゃあ、減価償却費がしっかり計上されているほど、銀行評価が上がるってこと?
税理士: 正確には「適正に計上されているかどうか」を銀行は見ています。減価償却費を意図的に少なくして利益を大きく見せようとすると、EBITDA(返済余力)が小さくなるため、むしろ評価が下がることがあります。
社長: 利益を良く見せようとして、逆に融資が通りにくくなるってことですね。
税理士: そうです。銀行は「利益の見た目」より「実態としてお金が回っているか」を重視しています。
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6. よくある質問(FAQ)
Q1. 減価償却費を多く計上すると税金が増えるのでは?
逆です。減価償却費は経費(損金)になるため、計上すればするほど課税所得が下がり、法人税は減ります。ただし、法定の償却限度額を超えた計上は損金不算入となるため、適正額の範囲内で計画的に活用することが重要です。
Q2. 任意償却で減価償却費を少なくして利益を大きく見せることはできますか?
中小企業では会計上の任意償却が認められているため、技術的には可能です。ただし、銀行はEBITDA(返済余力)の計算に減価償却費を使うため、過少計上は「実態よりお金の回りが悪い会社」と判断されるリスクがあります。融資を意識するなら、原則として適正額を計上し続けることが有利です。
Q3. 定額法と定率法、どちらが資金繰りに有利ですか?
定率法は初期に多く償却できるため、設備投資直後の節税効果が高く、早期に手元資金を残しやすい特徴があります。一方で後半は償却費が減るため、返済余力の数字が年々下がって見える時期が来ます。自社の借入返済スケジュールと照らし合わせて選択することが重要です。
Q4. 銀行は決算書のどこで減価償却費を確認するのですか?
損益計算書(PL)の「販売費及び一般管理費」または「製造原価」の内訳に含まれています。内訳書(勘定科目内訳明細書)や固定資産台帳との整合も確認されます。銀行担当者によっては、「減価償却費を適正に計上しているか」を必ずチェックする項目として見ています。
Q5. 「黒字倒産」と減価償却費は関係がありますか?
関係があります。帳簿上の利益は出ていても、借入金の元本返済・設備投資・運転資金の増加などにより現金が枯渇するのが黒字倒産の典型です。減価償却費の仕組みを理解し、「利益」だけでなく「キャッシュ創出力」で経営を判断する習慣が、黒字倒産を防ぐ第一歩になります。
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まとめ:減価償却費はキャッシュ経営の"クッション"
減価償却費は「現金が出ない経費」であり、利益とキャッシュのズレを生む主因の一つ
実質的なキャッシュ創出力は「営業利益+減価償却費」で計算される
銀行はEBITDA(営業利益+減価償却費)をもとに返済余力を判断している
減価償却費を過少計上すると、融資評価が下がるリスクがある
「償却費 ÷ 設備投資額」の比率で、会社の資金体質を把握できる
帳簿上の利益にとらわれず、「お金が出ていない費用=減価償却費」に注目することが、資金繰りに強い経営への第一歩です。
また、法人税節税や資金戦略上も、減価償却の計画的な運用が大きな意味を持ちます。
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