黒字なのに現金が増えない理由|利益とキャッシュフローの違い
- 近藤 祐輔

- 2025年12月25日
- 読了時間: 8分
更新日:4 日前
はじめに
「今期は税引後利益がしっかり出た。でもなぜか現金が増えていない・・・」
多くの経営者が抱えるこの疑問の答えは、「利益=現金ではない」という会計の基本原則にあります。
帳簿上の利益と現金の動きは必ずしも一致しません。この仕組みを理解しないと、「黒字なのに資金ショート」という事態に陥るリスクがあります。
今回は社長と税理士の対話形式で、税引後利益とキャッシュフローがズレる理由と、実務的な対処法を解説します。
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1. 税引後利益とは何か
社長: 決算書の一番下にある「税引後利益(当期純利益)」は、手元に残った現金ではないんですか?
税理士: 違います。税引後利益は「会計基準に基づいて計算された最終的な成果」であり、現金の出入りを直接表しているわけではありません。
たとえば商品を売って売上を計上しても、まだ代金を受け取っていなければ利益は計上されますが現金は増えません。これが「利益と現金のズレ」の最も基本的な例です。
社長: では利益と現金はどういう関係にあるんですか?
税理士: 大まかな関係はこうです。
手元現金の増減 ≠ 税引後利益
現金が増える要因:現金での売上回収・借入・増資など
現金が減る要因:現金仕入・設備投資・借入返済・納税など
利益があっても現金が増えないのは、
この「現金の動き」と「利益の計算」が別ルールで動くから
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2. 利益と現金がズレる5つの要因
社長: 具体的に、どんな理由で利益と現金がズレるんですか?
税理士: 主に5つの要因があります。
① 売掛金の未回収
売上は請求書を発行した時点で計上されますが、現金が入るのは入金サイト後です。売掛金が増えているということは「利益は出ているが現金はまだ手元にない」状態です。
② 棚卸資産の増加
仕入れた商品・材料は売れるまで在庫として資産に計上されます。現金は仕入れ時点で出ていきますが、利益への影響は売れたときだけです。在庫が増えるほど現金が在庫に変わって固定されます。
③ 設備投資による現金の一括支出
社長: 設備を買うと、どうしてズレが生じるんですか?
税理士: 設備投資では現金は購入時点で一括して出ていきますが、損益計算書への費用計上は減価償却として数年に分散されます。
例:1,000万円の設備(耐用年数10年・定額法)を購入
現金の動き:購入時に1,000万円が一括流出
費用の計上:毎年100万円ずつ10年間(減価償却費)
→ 購入した年は1,000万円のキャッシュアウトなのに
損益への影響は100万円だけ → 現金が大きく減っていても利益は変わらない
④ 借入金返済の元本部分
社長: 借入の返済が、利益に影響しないんですか?
税理士: 支払利息は費用として損益に影響しますが、元本の返済は損益計算書に出てきません。毎月の返済で確実に現金が減っているにもかかわらず、利益には影響しない ——これが最も見落とされやすいズレです。
例:毎月100万円の借入返済(うち利息10万円・元本90万円)
損益への影響:利息10万円のみ費用計上
現金への影響:毎月100万円(元本90万円+利息10万円)が流出
→ 利益は良く見えても、毎月90万円の元本返済でキャッシュが減り続ける
⑤ 法人税・消費税等の納付
税引後利益には法人税等が差し引かれていますが、実際の納税は決算後数か月後です。法人税については「利益の約30%が税負担の目安」という感覚を持っている経営者も多いですが、消費税はそうした簡易計算が基本的に難しく、見落とされやすい落とし穴があります。
社長: 消費税って、売上の10%を払えばいいんじゃないですか?
税理士: 税抜経理を採用している会社では、消費税はP/Lに出てきません。そのため日々の損益を見ていても消費税の負担がまったく見えない状態になります。「決算が終わっていざ納税となったとき、こんなに高額な消費税を払わなければならないとは思ってもみなかった」というケースが実際に多く起こります。
社長: では消費税はどうやって管理すればいいですか?
税理士: 月次ベースで「仮受消費税(受け取った消費税)」と「仮払消費税(支払った消費税)」の差額を確認することが重要です。
納付予定の消費税(概算)= 仮受消費税 − 仮払消費税
例:
仮受消費税(売上にかかる消費税) 500万円
仮払消費税(仕入・経費にかかる消費税)300万円
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納付予定の消費税(概算) 200万円
この差額が「現在手元にある預り消費税」の概算です。毎月この数字を確認しておくことで、申告時にいくら納税が必要になるかを常に意識できます。この金額はすでに受け取っている現金の中に含まれているため、使ってしまわないよう別口座で積み立てる習慣をつけることをお勧めします。
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3. 決算書でギャップを確認する方法
社長: 利益と現金のズレを決算書でどうやって確認すればいいですか?
税理士: 2つの方法があります。
① 貸借対照表の前年比較
前期と今期のB/Sを比較して、以下の項目が増加していないかを確認します。
売掛金・受取手形の増加:回収が遅れているサイン
棚卸資産の増加:在庫に現金が固定されているサイン
固定資産の増加:設備投資で現金が出ていったサイン
借入金の残高推移:元本返済でキャッシュが減っているサイン
② キャッシュフロー計算書の確認
CF計算書がある場合は、営業活動によるCFを最初に確認します。
営業CFがプラスで安定:本業で現金を生み出せている → 良好
営業CFがマイナス:利益が出ていても本業でキャッシュを消費している → 要注意
投資・財務CFとのバランスを見ることで、「どこで現金が増え・どこで減ったか」の全体像が把握できます。
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4. 実務でできる改善策
社長: 利益とキャッシュのギャップを改善するには何をすればいいですか?
税理士: 以下の3点が実務上有効です。
① 売上債権回収のスピードアップ
請求書の早期発行・回収条件の見直し・滞留債権のフォローを習慣化することで、現金回収を早めます。
② 設備投資前にキャッシュフローベースで判断する
「減価償却で利益への影響は分散されるが、現金は購入時点で一括流出する」ことを前提に、設備投資の意思決定をします。投資前に「手元現金への影響」を試算することが重要です。
③ 税引後利益の使途を区分して管理する
利益が出た年は「借入元本返済・納税・設備更新積立・内部留保」のそれぞれに利益をどう配分するかを計画します。この計画なしに「利益が出たから役員報酬を上げる」という判断をすると、手元現金が一気に減ります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 利益が出ているのに現金が増えない場合、まず何を確認すべきですか?
まず貸借対照表で「売掛金・棚卸資産・固定資産」が前期比でどう変化したかを確認します。次に借入金の元本返済額を確認します。この2つを確認するだけで、現金が減っている主因を特定できるケースがほとんどです。
Q2. 減価償却費を多く計上すると現金は増えますか?
増えません。減価償却費は現金支出を伴わない費用のため、多く計上しても現金は動きません。ただし減価償却費が多いと利益が減り法人税が減るため、間接的に手元現金が増える効果があります。現金への直接的な影響は設備の購入時点(キャッシュアウト)だけです。
Q3. 借入元本の返済は経費にならないんですか?
なりません。借入元本の返済は「負債の減少」であり、損益計算書に出てきません。支払利息のみが費用として計上されます。そのため毎月の返済で確実に現金が減っていても、利益には反映されません。
Q4. フリーキャッシュフローとは何ですか?
営業CFから設備投資などの投資CFを差し引いた「実際に自由に使える現金」のことです。利益が出ていても設備投資が多い年はフリーCFがマイナスになることがあります。銀行は返済能力の判断にフリーCFも参考にします。
Q5. 月次で利益と現金のズレを管理するにはどうすればいいですか?
月次試算表(P/L・B/S)と資金繰り表をセットで確認することが基本です。月次試算表で利益を確認し、資金繰り表で現金の増減を確認することで、毎月のズレを把握できます。顧問税理士に「月次で利益とキャッシュのズレを確認したい」と依頼することをお勧めします。
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まとめ
税引後利益は「会計上の成果」であり、手元現金の増加を意味しない
利益と現金がズレる主な要因は①売掛金の未回収②棚卸資産の増加③設備投資の一括支出④借入元本の返済⑤納税タイミング
特に「借入元本返済は損益に出ない」という点は経営者が最も見落としやすい
B/Sの前年比較とCF計算書の営業CFで、ギャップの原因を特定できる
利益の使途(返済・納税・投資・内部留保)を計画的に管理することが改善の基本
「利益が出ているから大丈夫」という感覚が最大の落とし穴です。利益と現金のズレを月次で把握する習慣が、資金繰りに強い経営の基本です。
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