税務申告書と決算書の違いを理解する〜銀行、税務署、経営者、それぞれが見る「数字」は違う〜
- yusukekondo9
- 8月14日
- 読了時間: 4分
「決算書と税務申告書って、同じものじゃないの?」経営者の方からよくいただく質問です。実はこの2つ、目的も、内容も、見る相手も違うという点で、明確に区別する必要があります。
この記事では、「税務申告書」と「決算書」の違いを、税務・財務・経営の観点から解説します。
I. そもそも「決算書」とは?
決算書は、会社の1年間の経営成績や財務状況をまとめた資料で、以下のようなものを指します:
貸借対照表(B/S)
損益計算書(P/L)
株主資本等変動計算書
キャッシュフロー計算書(※中小企業は省略されることも)
これらは会計ルール(企業会計原則)に基づいて作成されます。主に、経営者自身の意思決定・金融機関・株主・外部利害関係者に向けた情報開示を目的とします。
II. 一方「税務申告書」とは?
税務申告書(法人税申告書)は、決算書をベースに、税法に従って税額を計算し、国に提出する書類です。
内容は以下のように構成されます:
別表一(税額の確定)
別表四(加算・減算による課税所得の計算)
別表五(一)・(二)(利益剰余金や繰越欠損金の把握)
勘定科目内訳明細書
添付書類(決算書など)
税務申告書は、「法人税を正しく計算する」ことが目的であり、作成ルールも税法に基づくため、会計とは考え方が異なる部分があります。
III. 決算書と税務申告書の違い一覧
比較項目 | 決算書 | 税務申告書 |
作成目的 | 経営状況の把握・対外開示 | 法人税の申告・納税 |
根拠ルール | 会計基準・企業会計原則 | 法人税法等の税法 |
主な読み手 | 経営者、銀行、株主など | 税務署 |
利益の定義 | 会計上の利益(損益計算書) | 課税所得(別表四など) |
表示形式 | 比較的シンプル | 専門的かつ複雑な様式 |
IV. なぜ会計と税務で違いが出るのか?
実務上、会計上の利益と税務上の課税所得は異なることが大半です。その理由は、「会計は企業の実態を正しく表すことが目的」であるのに対し、「税務は課税公平性を重視している」からです。
主な違いの具体例
項目 | 会計上の処理 | 税務上の処理 |
減価償却 | 任意償却も可能 | 法定耐用年数・定められた償却率で強制 |
交際費 | 費用処理可能 | 資本金・売上規模によって一部損金不算入 |
寄附金 | 全額費用計上可能 | 原則として損金不算入(限度あり) |
引当金 | 実態に応じて計上可能 | 原則、損金算入不可 or 限定的 |
損失処理 | 会計上は当期の費用処理可 | 税務上は繰延 or 不認定のことも |
これらの調整を行うために、「別表四」で加算・減算という形で会計と税務の利益を橋渡しします。
V. 銀行はどちらを見るのか?
金融機関が融資判断の際に重視するのは会計ベースの決算書です。
特に以下のような資料をチェックします:
貸借対照表(B/S)
損益計算書(P/L)
勘定科目内訳明細書
別表五(一)・(二)
銀行は、税務上の節税処理ではなく、事業としての収益性・安全性・健全性を見ています。そのため、極端な節税で「見かけの利益が少ない」場合には、「本当に返済能力があるのか?」と疑念を持たれることもあります。
VI. 経営者としてどう使い分けるべきか?
✅ 決算書は「経営の羅針盤」
毎月・毎期の損益や財務状況を確認する
銀行とのコミュニケーション資料として活用
投資判断・資金調達戦略に活かす
✅ 税務申告書は「納税のルールブック」
法人税額の確定・納税義務の履行
節税のための判断材料(租税特別措置など)
将来の税務調査リスクの確認
両者は密接に関係していますが、目的が異なるため、どちらにも精通している税理士の支援が欠かせません。
まとめ|「同じ数字でも目的が違えば読み方も変わる」
決算書と税務申告書は、同じ会社の数字を元に作成されていても、「誰に向けた何のための資料か」が違います。
経営者が両者の違いを理解しておくことで:
金融機関との信頼関係を構築しやすくなる
節税と経営判断を両立しやすくなる
決算対策を戦略的に行えるようになる
といった効果が期待できます。
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