在庫とキャッシュフローの関係|棚卸資産が資金繰りを圧迫する理由
- 近藤 祐輔

- 1月16日
- 読了時間: 7分
更新日:5月17日
はじめに
「売上は順調なのに、なぜか資金繰りが苦しい・・・」
この原因の一つが在庫(棚卸資産)の増加にあることが多いです。在庫は決算書上では「資産」として計上されますが、実態は「現金が姿を変えて寝ている状態」です。
在庫は利益を生むための資産ですが、同時にキャッシュを止める資産でもあります。この二面性を理解せずに在庫管理をしていると、利益が出ていても現金が不足するという状況に陥ります。
今回は社長と税理士の対話形式で、在庫とキャッシュフローの関係と、実務的な管理のポイントを解説します。
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1. 在庫(棚卸資産)とは何か
社長: 棚卸資産って、在庫のことですよね?具体的に何が含まれますか?
税理士: 貸借対照表の棚卸資産には、以下のような「販売のための資産」が含まれます。
商品・製品:販売用の完成品
半製品・仕掛品:製造途中のもの
原材料・部品:製造前段階のもの
これらはすべて「まだ売れていない=現金化されていない資産」です。
社長: 在庫が増えると、決算書上は資産が増えて良く見えますよね?
税理士: 数字の上ではそうです。しかし「資産が増えた」ということは「その分の現金が在庫に変わった」ということでもあります。これが在庫管理の落とし穴です。
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2. 在庫がキャッシュを圧迫する仕組み
社長: 在庫が増えると、なぜ資金繰りが苦しくなるんですか?
税理士: 仕入・製造・保管などで一度お金を出してから、売れて入金されるまでの間、現金が在庫に固定されます。この期間が長いほどキャッシュが在庫に滞留し続けます。
仕入・製造でキャッシュが出ていく
↓
在庫として資産に計上(現金はない)
↓
販売・入金されてはじめてキャッシュが戻る
↓
この「出ていく→戻る」のタイムラグが資金繰り悪化の原因
社長: 利益が出ていても、在庫が増えると現金が減るんですね。
税理士: その通りです。これが「黒字なのにお金がない」の典型的な原因の一つです。キャッシュフロー計算書(間接法)で見ると、棚卸資産の増加は運転資本の増加として営業CFからマイナスされます。
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3. 在庫増加が経営に与える影響
社長: 在庫が増えすぎると、具体的にどんな問題が起きますか?
税理士: 4つの問題が生じます。
① 資金が固定化し、他の支出に回らない
仕入・人件費・設備投資など、他の必要な支出に現金が回らなくなります。借入金で在庫を賄っている場合は、在庫が売れない間も金利負担だけが発生し続けます。
② 営業キャッシュフローが悪化する
棚卸資産の増加は営業CFのマイナス要因です。営業CFが悪化すると銀行の返済能力評価が下がり、融資条件が厳しくなる可能性があります。
③ 不良在庫・陳腐化による損失リスク
売れ残った在庫は時間が経つほど価値が下がります。棚卸資産の評価損(廃棄・値下げによる損失)は一定の要件を満たせば税務上も損金算入できますが、利益を一時的に大きく圧迫します。在庫の陳腐化を早期に認識して損失計上するか、値引き販売で現金化するかを判断することが重要です。
④ 銀行評価の低下
銀行は在庫を単なる資産として見ているわけではありません。在庫回転が遅い会社や不良在庫が多い会社は「資金効率が悪い」「販売計画に問題がある」とマイナス評価を受けることがあります。
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4. 在庫の実務チェックポイント
① 棚卸資産回転期間(在庫回転日数)
社長: 在庫が適正水準かどうかは、どうやって判断すればいいですか?
税理士: 「棚卸資産回転期間」で確認します。
棚卸資産回転期間(日)= 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365日
この数値が長くなるほど、在庫が滞留している状態です。
社長: 何日以内が適正ですか?
税理士: 業種によって大きく異なります。製造業・食品などは数日〜数週間、季節性のある商品や受注生産型は数か月になることもあります。重要なのは絶対値より「前年比でどう変化しているか」です。回転期間が伸び続けている場合は在庫の滞留が進んでいるサインです。
② 月次での在庫推移の把握
増加傾向が続いていないか
売上とのバランスが取れているか
特定の商品・品番に在庫が偏っていないか
③ 販売計画と仕入・生産の整合性
在庫が積み上がる背景には「売れ筋分析の不足」「過剰仕入」「見込み生産の外れ」があります。月次で販売実績と仕入・生産量を照合する習慣が、在庫管理の基本です。
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5. 在庫改善のための実務アクション
社長: 在庫を適正化するために、まず何から始めればいいですか?
税理士: 以下の順番で進めることをお勧めします。
① 死蔵在庫・低回転在庫の棚卸と処分
まず現在の在庫の中で「動いていないもの」を特定します。廃棄・値引き販売・返品交渉など、現金化できるものは積極的に現金に戻すことが優先です。
② 発注量・生産量の見直し
過去の販売実績をもとに、適正な発注量・生産量を再設定します。「安全在庫」の設定基準を見直し、過剰な安全在庫を持たないようにします。
③ 受注生産型・少量多頻度発注への転換
可能であれば受注後に生産・仕入を行う受注生産型へ転換することで、在庫リスクを大幅に削減できます。少量多頻度発注も在庫圧縮に有効です。
④ 月次での在庫の見える化
在庫回転日数を毎月計算し、月次試算表と一緒に確認する習慣をつけることで、在庫増加の異常を早期発見できます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 在庫回転期間の目安を業種別に教えてください。
業種によって大きく異なります。食品・日用品などの小売業は30〜60日、製造業は60〜90日程度が一般的な目安です。季節性が高い商品や受注生産型は例外的に長くなることがあります。自社の過去数期の推移と、同業他社の水準を比較することが最も実用的な判断方法です。
Q2. 不良在庫を税務上の損失として計上するにはどうすればいいですか?
棚卸資産の評価損(廃棄損・評価減)は、税務上一定の要件を満たす場合に損金算入できます。物理的な破損・陳腐化・市場価格の著しい下落などが認められる場合です。ただし単なる「売れ残り」だけでは認められないケースもあるため、処分・廃棄の実態を証明する書類(廃棄証明・写真など)を残しておくことが重要です。税理士に確認した上で処理することをお勧めします。
Q3. 在庫が多いことで銀行の融資審査に影響しますか?
影響します。銀行は棚卸資産の回転期間と、前年比での変化を確認します。在庫が急増している場合は「販売が計画通り進んでいないのでは」と懸念されます。また不良在庫が多い場合は、実質的な資産価値が決算書より低いと見なされ、自己資本比率が調整されて評価されることがあります。
Q4. 在庫を減らすことで、すぐに資金繰りが改善しますか?
在庫を現金化できれば、その分だけ手元現金が増えます。ただし値引き販売で現金化する場合は粗利率が下がるため、損益へのトレードオフを考慮する必要があります。不良在庫の廃棄は損失計上となり一時的に利益が悪化しますが、長期的には財務体質の改善につながります。
Q5. 在庫の月次管理はどうすれば始められますか?
まず月末時点の棚卸資産残高を毎月記録し、売上原価と合わせて在庫回転日数を計算することから始めます。会計ソフトから棚卸資産の月次残高を確認できる場合は、それを月次試算表と合わせて確認する習慣をつけることをお勧めします。
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まとめ
棚卸資産は「資産」だが、実態は「現金が在庫に姿を変えて固定されている状態」
在庫増加は営業CFのマイナス要因であり、利益が出ていても現金不足につながる
棚卸資産回転期間(棚卸資産÷売上原価×365日)で滞留状況を把握する
不良在庫は時間が経つほど価値が下がり、将来の損失リスクになる
銀行は在庫回転の遅い会社を「資金効率が悪い」と評価する
まず死蔵在庫の現金化→発注量の見直し→月次での見える化の順で改善を進める
「在庫は資産だ」という思い込みが資金繰り悪化の盲点になります。在庫をキャッシュの視点で管理する習慣が、資金繰りの安定と銀行評価の向上に直結します。
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