節税ではなく「残す経営」へ|税金を減らすことより大切な利益の使い方

節税ではなく「残す経営」へ
― 税金を減らすことより大切な利益の使い方
「年商1億から5億へ」シリーズ 第11回
はじめに
社長「今期は利益が出そうなので、何か節税できませんか。」
近藤 決算が近づくと、本当によくいただくご相談です。使える税制を活用し、不要な税金を払わないことは大切ですから、それ自体は間違っていません。ただ、一つだけ忘れないでいただきたいことがあります。
社長「何でしょうか。」
近藤 税金を減らすことと、会社にお金を残すことは同じではない、ということです。100万円の税金を減らすために300万円のお金を使っていたら、税金は減っていますが、会社から出ていくお金は増えています。年商1億円を超え、5億円を目指す会社であれば、「いくら税金を減らせるか」だけでなく、「税金を払った後、会社にいくら残るのか」という視点が重要になります。
今回は、「節税する経営」から一歩進んだ「残す経営」について考えてみます。
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第1章 節税そのものが目的になっていないでしょうか
近藤 利益が出ると、「何か経費を使った方がいいのではないか」と考える経営者は多いです。以前から必要だった設備を購入する、採用に投資する、社員へ適切に還元する。こうした支出が将来の利益につながるなら、会社にとって意味のあるお金の使い方です。
社長「でも、正直『税金を払いたくないから使う』という発想になることもあります。」
近藤 正直におっしゃっていただき、ありがとうございます。実はそこが一番注意すべきところです。必要性の低いものを買う、まだ必要のない設備を導入する、節税になるという理由だけで金融商品を契約する。それによって税金が減っても、会社のお金まで減ってしまえば、本当に得をしたとは言えません。
実際にご相談いただいたある製造業の会社では、決算直前に「節税になるから」という理由で、当面使う予定のない機械を購入されたことがありました。翌年、本当に必要な設備投資のタイミングで、その分の資金が足りなくなってしまい、結果的に借入で補うことになりました。
社長「税金を減らすために使ったお金が、後で自分の首を絞めることもあるんですね・・・。」
近藤 その通りです。だからこそ、支出の必要性と節税は分けて考える必要があります。
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第2章 100万円使っても、100万円税金が減るわけではない
社長「そもそも、節税で経費を使うと、その分税金がまるまる減るわけではないんですか?」
近藤 そこは誤解されやすいところです。税率を単純に30%とすると、100万円を経費として使えば税金は約30万円減りますが、会社からは100万円のお金が出ていきます。差し引きでは70万円のキャッシュが減っているんです。
社長「じゃあ、節税策自体、あまり意味がないということですか。」
近藤 そうとは言い切れません。すべての節税策が会社のお金を大きく減らすわけではないんです。税制上認められている特別控除や税額控除を活用できれば、支出を増やさずに税負担を抑えられることがあります。もともと事業上必要な投資に、利用できる優遇税制を組み合わせるのであれば、積極的に検討する価値があります。判断基準はシンプルで、「税金が1円も減らなかったとしても、これは買うだろうか」と自問してみてください。それでも必要だと思えるなら、事業上意味のある支出である可能性が高いです。
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第3章 税金を払うと、会社は弱くなるのか
社長「正直、利益を出すと税金が増えるので、できるだけ利益を出さない方がいいんじゃないかと思うことがあります。」
近藤 断言します。長期的に見ると、それは会社を弱くします。会社に利益を残すためには、原則として法人税等を支払う必要があります。税引後の利益が積み上がることで、会社の純資産が増えていくんです。毎年1,000万円の税引後利益を5年間積み上げれば、単純計算で5,000万円が会社に蓄積されます。
社長「その5,000万円があると、何が変わるんでしょうか。」
近藤 新しい人材を採用する、新店舗を出す、設備を入れ替える、新規事業を始める、急な売上減少に耐える。さまざまな選択ができるようになります。資金に余裕がなければ、良い投資案件があっても見送らなければなりません。会社に残す利益は、単なる預金残高ではなく、未来の選択肢そのものなんです。
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第4章 「利益を残す」と「お金を残す」は同じではない
社長「利益を残すことが大事なのは分かりましたが、利益が出ていれば、その分お金も増えているということですよね?」
近藤 そこが実は違うんです。売上を計上しても、まだ入金されていなければその金額は売掛金です。商品を仕入れて在庫が増えれば、会社のお金は在庫に変わります。設備を購入すれば、購入時に大きな資金が出ていっても、全額がすぐに費用になるとは限りません。利益は「会社がどれだけ儲けたか」を表す数字、資金繰りは「会社のお金がいつ入り、いつ出ていくか」を表すもの。この二つは別のものです(このズレについては、第8回「利益は結果、キャッシュフローは意思決定」で詳しくお話ししていますので、あわせてご覧ください)。
社長「じゃあ、預金が増えていれば、少なくとも安心できますよね。」
近藤 それも一概には言えません。銀行口座に5,000万円あっても、そのうち3,000万円が借入金だったらどうでしょうか。「預金が多い=儲かっている」とも、「利益が出ている=資金繰りに余裕がある」とも限らないんです。
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第5章 経営者は「利益」と「キャッシュ」を二つ並べて見る
社長「では、何を見て判断すればいいんでしょうか。」
近藤 利益とキャッシュを、二つ並べて見ることです。毎月の試算表で500万円の利益が出ていたら、「では預金はいくら増えたのか」まで確認します。利益500万円なのに預金が100万円しか増えていなければ、残り400万円がどこへ行ったのか、売掛金なのか在庫なのか設備投資なのかを確認する。この順番で見ると、会社の状態が分かりやすくなります。
社長「節税を考えるときも、同じ考え方でいいんでしょうか。」
近藤 まさにその通りです。その対策によって税金はいくら減るのか、利益はいくら変わるのか、そして最終的に会社のキャッシュはいくら残るのか。この3つを分けて考えることが大切です。「残す経営」とは、単に会計上の利益を大きくすることではなく、利益を生み出し、それを最終的に会社の資金として残し、次の成長に使える状態をつくることなんです。
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第6章 決算直前ではなく、期首から利益の使い道を考える
社長「うちも、節税の相談はいつも決算の1〜2か月前になってからでした。」
近藤 多くの会社がそうです。ただ、本来、利益の使い道は決算直前になって初めて考えるものではありません。期首の段階で、今期はいくら利益を残すのか、設備投資はいくら予定しているのか、手元資金をいくらまで増やすのかを考えておけば、決算直前になって慌ててお金を使う必要はなくなります。
社長「税理士には、決算前に『何か節税できますか』としか聞いてきませんでした。」
近藤 その質問ももちろん大切ですが、もう一歩踏み込んでみてください。「この利益を会社に残した場合、財務はどうなりますか」「この節税策を使った場合と、何もしなかった場合で、3年後の会社のお金はどう違いますか」。こう聞くことで、税金だけでなく経営全体を見ることができます。税理士の役割は、本来、税額を計算するだけではないんです。
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まとめ
節税は大切です。利用できる制度はきちんと活用し、不要な税金を支払う必要はありません。しかし、節税そのものが経営の目的になってはいけません。
経営者が見るべきなのは、「いくら税金を減らしたか」ではなく、「税金を払った後、会社にいくら残ったか」、そして「残ったお金を、次に何へ使うのか」です。会社に残した利益は、設備投資にも、人材採用にも、新規事業にも使えます。不測の事態から会社を守ることもできますし、次の成長機会が訪れたとき、すぐに動くこともできます。
節税から、残す経営へ。さらにその先の、残した利益をどう使って会社を成長させるかまで考える。年商1億円から5億円を目指す会社にとって、税金との付き合い方も、会社の成長とともに変えていく必要があるのではないでしょうか。
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よくあるご質問
Q. 節税と脱税の違いは何ですか?
A. 節税は法律上認められた制度や選択肢を活用して税負担を抑えることで、合法的な行為です。一方、脱税は事実を偽るなどして税を不正に免れる行為で、明確に違法です。この記事で扱っているのは、あくまで前者の範囲での考え方です。
Q. 決算直前に相談しても、もう対策できることはありませんか?
A. 時期によってはできる対策が限られる場合もありますが、決算月であっても検討できる選択肢は残っていることが多いです。まずは現状の利益状況をお伺いした上で、可能な範囲をご提案します。
Q. 「税金が減らなくても買うか」で判断するのは、具体的にどんな場面で役立ちますか?
A. 特に、決算対策として提案される高額な設備や保険、金融商品を検討する場面で有効です。この問いに自信を持って「はい」と答えられない支出は、一度立ち止まって見直す価値があります。
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